故郷での夏休み　サードシーズン｜リアクション

故郷での夏休み　サードシーズン

〇埼玉県さいたま市

　落合まゆらは、薄水色のキャミと白のキャミを重ねて、タイトな七分丈ジーンズという出で立ちで旧市街のアパートを出た。
　寝子島アニメーション学院声優科2年生のまゆらは、ポニーテールを揺らし日傘をさして駅へ向かう。
　
　駅でお菓子を買うと、ねこでん寝子島線に乗る。
　寝子島大橋を渡って鎌倉まで出た。
　それから横須賀線に乗り、大船で東海道本線高崎行きに乗り換えて大宮へ到着した。

　大宮駅を降りて、てくてくとさいたまの街を歩くこと数分。
　中学では半ば引きこもりだったまゆらにとって、街はそれほど郷愁を誘わない。
　内向的で大人しかったまゆらを心配して、親は敢えて母親の母校である寝子高へ一人まゆらを送り出したのだった。

　どうってこともない街並みに溶け込むようにして建つどうってこともない一軒家──まゆらの実家に着いた。
　呼び鈴を押すと、
「はい、どなた？」
　母の声がした。
「あたし、まゆらだよ」
　と返事すると、すぐに母が出てきた。
「はい、おみやげ」
　まゆらは手にした寝子島サブレの箱を差し出す。
「ありがとう。今年はいつまで」
　と聞く母に、
「お盆まで」　
　と答えて家に上がる。

　正月休み以来、足を踏み入れていない２階の自分の部屋へ。
　部屋はきちんと掃除されていた。
「大して変わっていない。変わっていたら困るけど」
　空気は悪くないが、暑かった。
　クーラーのスイッチを入れて、バッグをその辺にぽんと放って、ベッドに横たわる。

「お風呂湧いたわよ」
　母の声で我に返った。
「はーい」
　風呂に入って汗を流し、あがってみると父や社会人の兄貴が帰ってきていた。
「全員そろっての夕食は久しぶりだな。頑張ってるか？」
　食卓を囲みながら話をする。
「明日は都内で声優事務所のオーディションなの。これから準備しなきゃ」
「大変だな……」
「帰省の時期とオーディションが重なるなんてね……でも将来かかってるし！」
　寝子島より実家からの方が事務所に近かったりする。
「頑張ってね。んあまり夜更かしはできないわね」
「うん……」

　なかなか落ちつかない中、まゆらは寝るまで色々と準備を進めるのだった。

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