故郷での夏休み　サードシーズン｜リアクション

故郷での夏休み　サードシーズン

　翌日、恵美は遥を両親に任せ、佳奈と共に母校へ向かった。
「隣の市にあるの？」
「そう。あ、昔はここにも高校があったのよ」
　途中のニャオンモールを指さして恵美が説明する。
「それって少子化の影響で？」
「そうね」
　懐かしそうな恵美の表情を見て、佳奈はなくなってしまったものを残念に思うのだった。

「それじゃお義母さんお義父さん、遥をよろしくお願いします」
「ああ、いっておいで」
　義両親に遥の事を頼むと、武正は健太と道場へ向かった。
「あっ、先生！」
　先に立つ健太が声を上げる。
「おお、伊藤か。久しぶりや。健太君の叔父さんなんやってな」
　道場の玄関にいた男に声をかけられた。
　大学時代、それに成人してからも全国大会でよくやりあった仲だ。
「ああ、お前に指導されてるなら健太君が上達してるのも納得だな」
　前夜素振りを見せてもらったが、健太はなかなか良い振りをしていた。
「久しぶりやから飲みにでも行きたいとこやが、お前下戸やったな……そうや、せっかくやから臨時講師を頼むわ」
「見学だけさせてもらうつもりだったんだが……いいのか？」
「ああ、みっちり鍛えてやってくれ」
　そう言われて道場を見たとき、武正の中で血が湧き立ちはじめた。

　隣の四条畷市にある母校で、恵美は門前から校舎を眺めた。
「ここがお母さんが青春を過ごした場所かぁ」
　恵美の母校を見つめて、佳奈は感慨にふける。
　遠目に部活の子達が走ったり練習したりしているのが見える。
（今も青春がここにあるんだな）
　かつては母もこうして高校生活を楽しんでいたのだと思うと、不思議な感じだ。
「昔は学区制で、実はここ、お母さんの学区で一番難しい高校だったのよ」
　と少し自慢に恵美が言う。
「ふうん」
　相槌ちを打ちながら佳奈は、門から先生らしき人が出てきてこちらを見ているのに気づいた。
　学校を見てるの怪しまれたかな？　と思っていると、その人は恵美を見つめて、
「えみっち？」
　と声を掛けられ恵美も直ぐに気付く。
「ななぽん？　そういえばここの先生になったって……」
「懐かしい！　ここじゃなんだから、ファミレスいかへん？」
「いいの？　行こう！　あ、こっちは娘。高校３年」
「佳奈です」
　恵美と同級生の先生は女子高生のようにはしゃいだ声を上げ、その様子を微笑ましく見ながら、佳奈の中にはある思いが生まれていた。

　ファミレスへ移動後。
「えみっち全然変わらへんなぁ。直ぐ解ったわ」
「ななぽんは貫禄出たなぁ」
　と恵美と先生が四方山話をしていると、佳奈がななぽん先生に尋ねた。
「あの、先生って大変ですか？」
「えっ？　そりゃ、まあ……」
　突然の質問にななぽん先生は驚いた様子だが。
「実はあたしも学校の先生になろうと思っているんです」
「えっ？」
　もっと驚いたのは寝耳に水の恵美だ。
　ななぽん先生は佳奈の真面目な表情を見て少し考え、答えた。
「理想や情熱だけで出来る仕事やないと思う、けど、私達の仕事には意味があると、そう思ってるで」
　頷いた佳奈は、
「あたし、次の世代の青春の支えになりたいんです」
　と話し。
「そう」
　と先生は少し嬉しそうに微笑んだ。
（佳奈ちゃんがそんなことを考えていたなんて）
　驚いた恵美だが、母親の目になって見守ることにした。

　武正は道場での指導を終えた。
「おつかれさん、助かったで」
「こっちもいい刺激になったよ」
　帰り際、友人は言った。
「そや、よく応援に来てた彼女、今は奥さんなんやろ？　仲ような」
「……ああ」
　へぇという顔で健太君がこちらを見上げている。
　稽古の時は尊敬の眼差しだったのだが、と思いながら苦笑を返す。
　健太君の前で下手なことを言ったら友人に筒抜けなりそうだ。

　翌日は遥も含め全員で海遊館を楽しんだ後、寝子島へ帰った。

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