【花火大会】打ち上げ花火の響く夜に。｜リアクション

【花火大会】打ち上げ花火の響く夜に。

　星ヶ丘でヒョウのケモ耳・ケモしっぽを手に入れた、八神修と七夜あおいは自転車に乗り込んだ。次に目指すのはシーサイドタウン――それから海岸へ回って、最後に商店街から神社へと巡る予定。
　そんな風に自転車で島中を巡ろうと、提案したのは修である。大好きなあおいと過ごす花火の夜、もちろんそれだけでも修にとっては特別で、素敵な夜になるのは間違いないのだけれど、

「ただ観るんじゃなく、もっとアクティブに参加してみないか？」
「アクティブに？」
「ああ。――尻尾を全部集めないか？」

　そう提案した修に、提案されたあおいは目を丸くした。そんな彼女に、鯨や兎の尾、猫の鍵尻尾なんかは幸運の印だから、今回のケモしっぽストラップも集めたらイイコトあるかも……と説明すると、面白そうだとあおいの瞳が輝いて。
　巡るルートを相談したり、始まる前からワクワクした気分を味わって、やっと迎えた本番である。うん、と自転車の上で頷き合って、力強く漕ぎ出した2人が星ヶ丘を後にしたのと同じく、佐和崎紗月と初瀬川理緒もまた、星ヶ丘から別会場へ移動するところだった。
　今日の2人は浴衣姿だ――ほおずき祭に次いで、今年2回目の浴衣デートである。着ている浴衣は前とは違い、理緒が透き通った空の水色に牡丹を添えた大正ロマン風の浴衣、紗月が白の繊細な生地に月下美人の華が咲く可憐な浴衣と、見た目にも涼やかで華やかだ。
　かたかたと下駄を鳴らしながら、紗月が「良かったね」と微笑んだ。

「たまたま花火大会にオフが重なって」
「ほんと、ラッキーだったよねー」

　そんな恋人の言葉に、理緒は大きく頷く。ついでに少しため息が漏れたのは、どうか許して欲しい。
　何しろ大学最初の夏休みだというのに、相変わらず紗月ともどもグラドルとしての活動が結構忙しいのだ。もちろん、その分だけ2人一緒に過ごせる時間が増えたので、嬉しくはあるのだが。
　それとこれとは話が別だと、思いながらも頑張ってこなしていた多忙な仕事の合間に現れた、2日程度の休み。そのタイミングでちょうど花火大会があったので、こうして2人やって来たのだった。
　折角だから花火大会で賑わう寝子島のあちこちを見て回ろうと、仲良く手を繋いで歩き出しながら、次はどこの会場に行こうかと話す恋人達も後にした、星ヶ丘にあるステッラ・デッラ・コリーナの屋外プールでは、葉利沢倫理子
――否、倫理子の第2の人格であるMaliceが仄暗い情念に燃える眼差しを、プールサイドへと注いでいた。ナイトプールで解放されているそこは、何人もの利用客が居て。
　その中に、Maliceの見つめる2人は居た。見つめる――否、睨みつける、という方が正しいかもしれない。
　ギリッ、奥歯を砕けんばかりに噛み締めて、Maliceは2人を――より正確にはそのうちの1人を睨みつけた。

（そんな風に寄り添って歩くな、この××××××！！）

　胸の内で、青少年の健全育成に差し障りのあるような、ありとあらゆる罵声を浴びせているその女は、姫木じゅん。キャバクラ『プロムナード』のキャバ嬢にして、朝鳥さゆるを――Maliceが執着している彼女を『たぶらかしてる』女。
　Maliceがナイトプールまでやって来たのも、あの2人が一緒にそちらへ向かうのを見たからである。それを目にした瞬間、胸の奥にどろりとした嫉妬が詰まり、目の前が真っ赤になって――そうして2人の後をつけ、ここまでやって来たのだった。
　そんなさゆるへの執着と、じゅんへの嫉妬でギラギラしているMaliceの眼差しの先で、それと知らずに見つめ合いながらさゆるとじゅんは、プールサイドを寄り添い歩いている。見た目は20代半ばの硬質な美貌をもつさゆると、女子中学生にしか見えないじゅんはどちらも目を惹いていたが、同時に近寄りがたい雰囲気も漂わせていて、そんな2人に声をかけようとする者はいない。

　ゆえに2人だけの世界に入り込んだような錯覚を覚えながら、さゆるとじゅんは落ち着ける場所を探して歩く。――何とも言えない気持ちがした。
　ここは、2人が最初に出会った場所だ――あの時はまだ互いに名乗っても居なかったのに、今こうして2人で同じ場所を、一対のように寄り添い歩いているなんて。
　そんな想いでじゅんを見つめるさゆるを、微笑みながらじゅんが見つめ返す。それは完成された絵画のようで、今にも崩れ落ちそうな危うさも秘めていた。

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【花火大会】打ち上げ花火の響く夜に。

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