異国への距離は片恋より遠くない｜リアクション

異国への距離は片恋より遠くない

　寝子電とは違って、ちょっと混雑気味の何両もある電車に揺られ、次に向かったのは東京大神宮。
　門から境内までいたるところにハート型――本当は、猪目と呼ぶらしいけれど、可愛い形に包まれたこの場所は、スマートフォンの待ち受けにすれば縁結びの御利益があると言われるほどのパワースポットだ。
　何をするにもまずはご挨拶から。参拝者の列に並ぶと、慎之介はキョロキョロと周囲を見やる。
　あちこちに恋にまつわるおみくじがあって、お守りを神様と半分に分けて結んでいったり恋文をしたためたりと、恋にまつわる神社であることには間違いないのだが。
「絆をストロングにするっていうより、新しい出逢いに向けてって感じがするな？」
「私たちの恋愛も大切だけど、留学先の縁も大事でしょう？」
「なるほどなっ！　月守が冴えててビーヘルプだ！」
　今の縁も強くして欲しいし、新しい縁も素敵な物になってほしい。
　そんな欲張りな願いだけれど、これから遠くに行ってしまう彼のためだから聞き届けて欲しい。
（慎之介くんの良縁は、恋愛と間違えないでってお願いした方がいいかな……それとも）
「月守？　そろそろ俺たちの番だぞ」
「お願い事は考えてきたのに、直前になると迷うね」
「また来たらいいじゃん」
　お賽銭はいくらにしようかと財布を眺める慎之介は、さらりと言う。
「あの時はサンキュ！　おかげで今も月守と一緒だ、だから今日はコレをリクエストするぜ！　ってさ」
　困ったときの神頼みというくらい、願い事があるときか、良くて年始のお祭り騒ぎに乗じてしか参拝しない人もいるけれど、神社とは日々の感謝を伝え報告をするところでもある。
　その何らかの報告をするとき、慎之介と再び訪れられるということは、二人にとって吉報なのだろう。
「そうだね、また……一緒に来るよね」
　あんまり心配しすぎず、でもしっかりと。
　慎之介の良縁と、それを願える強固な絆で二人を結んでくれますようにと輝夜は祈った。

　様々な種類のおみくじがあるから、どれを買うか迷ったけれど。
　輝夜は和紙で作られて表情も着物の柄も違う日本人形がついた恋みくじを、慎之介は和傘を開くことが運を開くという験担ぎになった傘みくじを買った。
　恋みくじは、健康や金運も記述があるが、その名の通り恋愛に関しての助言が豊富で、加護を授かれば効果は数ヶ月のうちにと言われるほど。
　輝夜は表の日本人形を撫で、緊張しながらおみくじを開く。ドキドキしながらも真っ先に恋愛運の項目を探しすと、そこには。

　――カシャッ！

　突然のシャッター音に吃驚して顔を上げれば、慎之介がおみくじを開いて記念撮影をしていた。
　開いた和傘は手のひらくらいの大きさで、放射線状に運勢が記されている。
「見てくれよ月守！　大吉だぜ!!」
　爽やかな彼の笑顔に似合う天色の傘は、大きな『快晴』の文字のふりがなに『大吉』と書かれていて、とても幸先が良い。
「凄いね！　私は……」
　――中吉。
　場所によって吉の上か下か変わってしまう、喜びにくいけど悪くはない結果。
（何か気をつけることがあるのかな？）
　他の項目はあとでじっくり読むとして、何はともあれ恋愛運。ようやく目を通したそこには――。

　試練の時、待つことは凶
　油断せずに信心し、成長が吉
　種を撒かねば花は咲かぬが、花咲けば実り授かる

　泣いて待っているだけではよくないけれど、慎之介との絆を信じて進めば努力は実るということだろうか。
　バイトも頑張って、語学も学んで。そうすれば一緒にいられる未来がやってくるのかもしれない。
「……がんばりましょう、って書いてる」
　そういう輝夜がまったく残念そうな顔をしていないから、結果は良かったのかと慎之介も安心する。
「じゃあ、結んでいかなくて大丈夫だな！　ええっと、次は……」
「香取神社だよ、確かここからなら30分くらいのはず」
　スポーツ振興の神として有名なそこであれば、慎之介の好きなバスケのことをお願いするのにピッタリだ。
　勝運袋を買って、彼のために白星となる白い砂利を境内で探し、手水舎で清めて詰めていく「勝守り」なら、応援している気持ちも込められることを願って。

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