異国への距離は片恋より遠くない｜リアクション

異国への距離は片恋より遠くない

　花畑を散策しながら丘の上から海を眺めて、ぼんやりするのもいいけれど。
　今日は予定がギッシリ詰まっているので、二人揃った記念写真も程々に次の目的地へ。
　まずは寝子島から一番近い羽田神社だ。
　二人の縁を強固に結ぶだけでなく、慎之介の好きなバスケットボールなど勝負事、それからなんと言っても航空安全の祈願ができるこの神社に、行き忘れることがあってはならない。
「ナイスチョイスだぜ月守！」
「これ以上ないってくらい、今の慎之介くんにピッタリでしょ」
　参拝の挨拶はしっかりと確認して、神様へ失礼にならないように手順を踏み、御利益を賜れるよう祈願する。
　……ちょっと欲張りかも知れないけど、ひとつの御利益にひとつの願い事だから大目に見てくれますように。
（でも、どれが一番かって言われたら）
　空港の近いここでは、飛行機の音が聞こえてくる。
　観覧車が突風で揺れただけでも凄い驚きようだったのだ、飛行機には安全に安全を重ねて飛んでもらわなければならない。
（慎之介くんがびっくりしない空の旅になりますように）

　じっくりお参りも済ませる頃には、もうお昼時。
　次の目的地までは電車で１時間ほどの距離のため、二人は羽田神社の近辺で昼食を取ることにした。
　注文を済ませてメニューが運ばれてくるまでの間、輝夜はどう切り出そうかと迷っていた進路を口にする。
「慎之介くんは、ビッグドリームが何か……まだ決まってないって言ってたでしょう？」
「ああ！　いろんな世界のスティムレイトに触れて、それが何かを見つけるつもりだぜ！」
「私もね、大学をまだ決めてないんだ」
　普通の両親に恵まれて、普通に未来を選択するならば。視野に入れる大学も就職先も決まっていて、その道から大幅に外れない限り自由が許されるのだろう。
　けれど輝夜が望むのは、両親のような普通の幸せではなくて、不透明であっても慎之介と紡ぐ幸せだ。
「高校を卒業しても留学先に居るなら、追いかけて行くからね」
「……アメリカの次はヨーロッパだって言ったら？」
「日常会話くらいの外国語は覚えるよ」
「本当に、まだノーディターミンなんだぜ？」
　本場のバスケに触れて選手になりたいと言い出すかもしれないし、他のスポーツかもしれない。
　身体を動かすのが好きだったのに、研究めいたことに興味を示すかも文学に目覚めるかもわからない。
　何をするか見えない先に挑むのはワクワクするけど、一緒に行こうぜと慎之介も気軽に言えなかった。
　大切だから、寂しい思いをさせるとわかっていたから、留学を理由に輝夜の告白も一度断ったくらいには、彼女を自分本位に振り回してはならないと思っている。
　――だけど。
「将来はわかんないかもしれないけど、そこに慎之介くんがいるじゃない」
　同じ大学に行って、同じ勉強をするだけが未来じゃないからと笑う。
　違う学校に行っても、将来的には支えられる仕事に就けるかもしれない。慎之介がどこの国に飛んでいっても、着いていくことができる仕事もあるかもしれない。
　それを見つけるために、慎之介が見ている世界を一緒に見てみたい。
　ぽつぽつと話してくれる輝夜は、あの時と変わらなかった。
　離れても好きでいたいと、遠距離になってもと手を離さなかった輝夜は、変わらずにいる。
「……サンキュ！」
　料理が運ばれてきて会話は中断してしまったけれど、それがしんみりした空気を切り替える合図になって良かったのかもしれない。
　慎之介は、無数に広がった未来の向こうに改めて、輝夜と共に進む選択肢を思い描いた。
　自分の進みたいほうへ全速力で向かうのも、大切な人と速度を合わせて歩くのも。……全速力で向かっても、輝夜なら自分が急ぎすぎて落としてしまった物を拾いながら追いかけてきてくれそうだけれど、それが信じられるから全速力を出せるのだろう。

　自分本位でしか見えていなかった未来に、新しい色がつく。輝夜は置いていくんじゃない、巻き込まれる出番を待ってくれている。
　二人でやったら楽しいことなんて、それこそいっぱいありそうで。慎之介はどんな未来があるだろうかとワクワクしていた。

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