うだるような暑さが続いても、夏休みはもう終わり。
まだまだ休み気分の抜けきらない1年2組の教室は、とても賑やかだった。
学校は学校で楽しいけれど。夏休みがもう少し続いて欲しかった気持ちと、久しぶりに会えるクラスメイトとの他愛ない会話が楽しい気持ちとで、どちらがいいのかなんて選べないと誰かが零す。
月守 輝夜も似たような気持ちだった。
夏休みが続けば、9月にならなければ――
青木 慎之介が留学してしまうことはない。
けれど、彼が楽しみにしている新しい1歩を応援したい気持ちもあるから、9月にならなければ良かったなんて身勝手なことは言えなくて。
時間も彼も止まらないことをわかっているし、ここで歩みを止めてもどうにもならないこともわかってる。
全て受け入れた上で彼に想いを告げたのだ、今更それをひっくり返そうだなんて思わない。
9月にならなければなんて、心の片隅のほんのちょっぴり弱い自分が、寂しさを紛らわすために呟いたにすぎない。
(……大丈夫)
自分たちは
永遠の絆で結ばれている。
慎之介も同じ気持ちであると、信じている。
この気持ちが届かなければと不安だった片思いの時に比べたら、半日かかる物理距離がなんだ。
電話もメールもビデオ通話もあるんだ、時差くらいがなんだ。
遠距離恋愛なんて、ちっとも遠くなんかない。
(でも……)
こうして視線で追える距離にいるのは、あと僅か。
元よりムードメーカーな気質でクラスの中心にいることの多かった彼が、引っ越し間際まで学校に顔を出してくれるのは嬉しいけれど。
「あっちの学校って、9月が入学式なんでしょう?」
「イエス! 今月半ばが新学期だから、転校もそれに合わせるんだ」
「日本食が恋しくなっても泣くなよ!」
「ノープロブレム、和食ブームのおかげで心配ないって」
海外留学なんて控えた彼が、教室でのんびりしているわけもなかった。
友達との別れの挨拶……なんてしんみりしたものではないけれど、旅立つ彼と話したい人は沢山居る。
それを邪魔するわけにもいかず、我の強くない輝夜はただただ慎之介を眺めていて。
これではまるで、片思いの頃に戻ったかのようだ。
「あっ、月守!」
「な、何……?」
無遠慮に見つめすぎてしまっただろうか。
けれど慎之介は熱視線には気づいてなかったのか、クラスメイトの頭の隙間からキョロキョロと輝夜を探し、目が合ったと同時にニコッと笑う。
「放課後、リザーブな!」
こちらの返事も待たずにまた友達との会話に戻ってしまった彼を、今度はぽかんと眺めて。
輝夜は自分の時間を予約されたのだと理解すると、しょぼくれていた気持ちが少し軽くなった気がした。
放課後デートに慎之介が選んだのは、旧市街への帰り道に駄菓子屋に寄ってアイスを食べ歩きして、小さな公園の木陰でのお喋りをすること。次の行き先は、暑さに耐えきれなくなったら考えるらしい。
なんの特別さもないからこそ、高校生の放課後デートっぽいだろと慎之介は笑う。
「ビッグドリームを掴んでくるから、大人になった俺のエスコートは期待していてくれよな!」
「そういえば、慎之介くんのビッグドリームって何か聞いてもいい?」
クロスバイクやバスケットボールの選手とか、新しい起業をするとか。
それとも、もっと予想できないことを言い出すだろうか。
なんにせよ、彼を支える未来を選択するためには進路を聞いてみたい。
「それを知るための留学だから、今の俺には見当もつかないな」
日本であってもアメリカであっても、同じ大学へ進んで今度こそ慎之介と学生生活を――そう思っていた輝夜はパチパチと瞬いた。
「知らない土地で新しい刺激をうけるんだ。どんな出逢いがあるかもわからないのに、今から決めておくなんてナンセンスだろ?」
「そっか……慎之介くんは、世界を広げに行くんだよね」
同じ大学に行きたいと言うタイミングを逃してしまった。
多種多様な分野がある大学だから、どこかしらには行くだろうと思っていたけれど……これだけフットワークの軽い彼が、必ずしも大学を選択するとは限らない。彼の進路は無限大に広がっているのだ。
ならば、その選択肢のひとつとして。
一緒に学生生活を送りたいと願えば、慎之介は思案してくれるだろうか?
「……もし、何かお手伝いできることがあったら、いつでも呼んでね」
進路が決まってないと言われてすぐに問うことも出来ず、輝夜は当たり障りのない返事をする。
柔らかに微笑んだつもりだけど、どこか寂しさが滲んでしまったかもしれない。
離ればなれなのは高校生の間だけだと思っていたのに、進路の不透明な慎之介を、どう追いかけていいのかがわからなくなってしまった。
「手伝いかー、さすがに荷造りとかはだいたい終わってるけど……そうだっ!」
慎之介は名案が思いついたようにパチンッと指を鳴らす。
「俺たちの絆を、ストロングな物にしようぜ!」
寝子島の中でも、日帰りで行ける島外でも。
あらゆる恋愛スポットに赴きお願いすれば、より『永遠の絆』は強固となる。
時間が許す限り行ってみようと笑う慎之介は、何も考えていないようで意外と考えていることがあるのかもしれない。
「慎之介くんも信じてくれてるんだよね、永遠の絆」
「イエス! もちろんだ! だから俺は、安心して留学できる」
その言葉に嘘がないこと。変わらず想ってくれていることが伝わってくる。
だから今は、我が儘を飲み込んで輝夜もほほえみ返した。
同じ大学に行きたいって言ったら、彼はどう思うだろう。
やっぱり、進路を決めたくないって突っぱねる?
それとも、一緒の選択もありだなって笑ってくれる?
……少しの不安はあるけれど。
とっておきの「いってらっしゃい」を、あなたに。
リクエストありがとうございます、浅野悠希です。
こちらは、月守 輝夜さんのプライベートが満載なシナリオです。
概要
■日時
9月初旬、青木 慎之介くんが日本を発つ数日前~当日です。
青木くんはギリギリまで寝子高に通学していますので、平日であれば放課後から、
休日は朝からお約束が可能です。
■状況
出立日のフライト時間は17時。
寝子島からの移動を考えると、早めの昼食まで寝子島で過ごすか、
東京方面に早めに出てしまって、少し観光することが可能です。
荷物は先に送ってあるので、青木くんは身軽な装いです。
異国の地を踏むまであと少しと、やや興奮気味かもしれません。
■できること
各種デートスポットを巡ることも出来ますし、準備し損ねた物を思い出して買い物に行ったりなど、
出立までの時間を自由にお過ごしください。
出立当日も、飛行機の時間を気にしつつデートをしたり、どこかでじっくりお話もできます。
あまりガイドに縛られず、月守さんらしく送り出して頂ければと思います。
NPC
今回登場とお伺いしてますのは、NPC:青木 慎之介
彼の進路は無限大すぎる様子。
同じ進路を選び取るにも、一筋縄ではいかなそうです。
参照シナリオについて ※独自ルール※
他のシナリオ、コミュニティなどの描写や設定を参照することは、原則的には採用されにくいとなっています。事前にお知らせ頂いている物以外は、通常シナリオと同じように記載をお願いします!
・事実を確認するだけで良く、深い読み込みがいらないもの
・どうしても前提にしてもらわないと困るもの
これらに関しましては、できる限り参考にしますので『URLの一部』をお知らせ下さい。
【例】シナリオID3242の9ページと、トピックID2853の181番目の書き込みを参照依頼する。
- T/2853/181の結果を受けてS/3242?p=9で●●を成功しました。●●の情報はある前提の行動です。 -
など、シナリオを『S』としたり、トピックを『T』としたり短縮表記で大丈夫です。
IDから該当ページまでのURLは省略せず、そのまま提示して下さい。
・必須じゃないけど知っておいて欲しいなという事柄については、
余力があれば確認させて頂きますので、ご了承の上で記載お願いします。
※浅野の独自ルールのため、こちらは他MSへ対応を迫る行為はお控え下さい。
それでは、よい1日をお過ごし下さいね!