悩んで、落ちて、襲われちゃう？　ドッキドキの密室15分！｜リアクション

悩んで、落ちて、襲われちゃう？　ドッキドキの密室15分！

　謎解きの台紙を手に、教室よりもっと狭い空間に乗り込む。
　地上と切り離された二人きりの空間は、口実がなければ誘い込めなかっただろうか。
　綾辻綾花は空の旅にわくわくと、謎を15分で解き明かせるかというドキドキと。早川珪が向かいに座っていることに心音を弾ませて、はにかんだ。
「珪先生、一緒に頑張りましょう」
　夜の観覧車なんて寄り添って夜景や星空を眺める、恋人っぽい乗り物かもしれない。
　でも、今はそんな距離感で過ごそうにも顔が真っ赤になってしまいそうだから。謎解きが楽しみなんですよと、意識していない素振りをするのが精一杯だ。
「うん、綾辻さんの閃きに期待してるよ」
　柔らかに微笑む珪が、緊張を解いてくれたように見えたので、素直に嬉しいと思っておくことにする。
「最初に探すのは青い屋根ですね」
「夜だし、怪しいくらいライトアップしているかもしれないね」
　最初は手分けをするように窓の外をみれば簡単に解けてしまう問題ばかりだったけれど、真上も近づく頃になれば頭を悩ませる。
　ヒントを探して景色を指で追えば肩が触れ、一枚の問題用紙を覗き込めばあの時のように――顔が近づきそうで、体勢を崩さないように踏ん張って。
（謎解きに集中しないと）
　珪を意識したら、顔が赤くなってしまう。そんな顔をしたら、彼だって扱いに困ってどう思うか。
　何か喋らなくては、何か。何か。
「あっ、猫！　珪先生、あの壁に猫の絵がありますよ」
　何かのお店か、この距離でも壁に大きく猫のシルエットが描かれているのが見えて、珪は目を細める。
「綾辻さんは猫、好きだよね」
「はい！」
「……良かったね？」
　綾花の胸元、サマーストールを留めていた白黒猫のブローチに微笑むから。
　猫を好きだと知って選んでくれて、それを身につけていることが嬉しいことも含めたような笑み。まるで小さな子を褒めるときのような優しい顔に、せっかく意識を逸らそうとした綾花は見惚れてしまう。
「珪先生は、ドキドキする事……あるんですか？」
　いつもいつもドキドキさせられるのは自分ばかりで、大人な余裕を見せる彼が遠く感じるのか悔しいのかわからないけれど。少しでも、同じ気持ちになっていればいいのに。
「うーん、贈った物が気に入ってくれたかなと心配になったり……」
（それは違うドキドキですね）
「放課後も遅くまで委員会で残ってくれるから、ちゃんと帰れたかなって思ったり」
（……気にしてくれるのは嬉しいですけど、もう少し）
　ちらり、と見上げた先はやっぱり大人で、落ち着いた珪の顔だったけど。
「時々、ちゃんと大人を装えてるかなって心配になるよ」
（そのドキドキは……それ、は）
　大人な顔で微笑んだとき、本当は早鐘の鼓動を隠していたりするのだろうか。
　先生だからじゃなくて、大人だから追いつくのを少し離れた先で待っていてくれたりするんだろうか。
「……ねぇ、綾辻さん？」
「は、はいっ！」
「あと2問、解けてないけど……どうしようか」
　もう観覧車は降り始めている。急がなければ間に合わない。
　聞きたいことはあったけれど、今はとにかく――
「ヒントを探しましょう！　目指せ全問正解ですっ！」
「ふふっ、頼もしいな」
「珪先生も頑張ってくださいね！」
「大丈夫だよ、今日の綾辻さんの香りは落ち着くから」
　本を読むのに邪魔にならなさそうだね、なんて問題用紙に目を通す珪は知らない。
　せっかく謎解きモードに切り替えることが出来た綾花の頬を、再び染めたことなんて、きっと。
　でも彼だって、さらりと褒めた内側ではドキドキしているのかもと知ったから。
　観覧車にはドキドキが二人分響いてるんだって思うことにする。