悩んで、落ちて、襲われちゃう？　ドッキドキの密室15分！｜リアクション

悩んで、落ちて、襲われちゃう？　ドッキドキの密室15分！

　一緒にランチをして映画を見て。つきないお喋りをしていれば、夏であっても夕暮れはすぐにやってくる。
　月守輝夜は、ちょっと恨めしく空を眺めた。もう少し夕陽もゆっくりしてくれたらいいのにと。
「次は観覧車に行かない？」
　上から見る夕陽も綺麗だろうから、今から並んで間に合いますように。
　彼との、青木慎之介とのデートの時間がもう少し長くありますように。
「ナイスだ月守！　俺もポスター見て気になってたんだ」
　夏休みが終わって、あなたが留学する前に――寝子島での思い出を増やしてくれますように。

　色んなゴンドラがあったけれど、二人が乗ったのは何の変哲もない普通のゴンドラだった。
　特殊な物は台数も少なく混み合っていたのもあったけれど、輝夜は遊ぶために乗るよりも慎之介とゆったりと思い出作りのために乗りたくて選んだ。
　内装は普通でも時間帯はちょっと特別で、今にも蕩け落ちそうなオレンジ色が海も寝子島も染め上げている。
　優しい温かな色は切なさも穏やかさも……ほんの少しロマンチックな気持ちも連れてくる気がした。
「綺麗だね」
「ワンダフルだ！　見る場所が変わると違うもんだな」
「慎之介くんは他のに乗りたかった？　気になってたって」
「ああ、たくさん種類があっただろ？　月守がどんなセレクトするか気になってたんだ」
　徐々に高度を上げて、見える景色が広がって。慎之介は旧市街のほうを見つめながら微笑む。
「俺のセレクトばかり優先して、月守が遠慮するなんてノーグッドだ。でも、俺は月守に言ってもらえないと多分気づけないから……バトルしない程度にぶつかり合おうぜ！」
「ありがとう。慎之介くんに言いたいこと、いっぱい考えておくね」
　例えばそれは、未来のちょっとした約束だとか。
　遠慮しなくていいと言われたら、飲み込まなくて良い物もたくさんあるのかもしれない。
「……私たちの家は見えないね」
　そう言って輝夜は慎之介の向かいから隣へ座り直した。
「いや、目をこらしたらもしかしたら」
　窓の外に齧り付こうとする慎之介に苦笑して、輝夜は緊張しながら彼の服の裾を引っ張った。
　夕暮れの観覧車、頂上まで秒読み。そんな中で彼女がそっと目を閉じれば、彼氏がすることなんて――。
「月守？」
　そっと、慎之介の手が頬に触れる。
「……いいのか？」
　覚悟は決めても緊張しているんだから、再確認なんてしないでほしい。
　輝夜は小さく頷くと、慎之介の吐息がかかりそうな距離にぎゅっと両目を瞑った。
「どっちの目!?」
「……え？」
「ゴミ、とって欲しいんだろ？　レフト？　ライト？」
「…………ばかっ！　慎之介くんのばか！」
　もう頂上なんて過ぎてしまったし、ムードなんて消し飛んじゃったし！
　人がどれだけ勇気をだしたかも知らないで、ぽかんとした顔をしている慎之介なんて。
　拗ねた顔を見せれば、慎之介は焦り出す。
「え？　あ――ストップ、ちょっとタイム」
　ぶわっと赤い顔を隠すように手で覆った慎之介は『今気づきました』と言わん顔をしていたから、今日の所は許してあげることにした。
　恥ずかしい空気に包まれて、降りるのも半分ほど来たという頃。突然ゴンドラが大きく揺れた。
「きゃっ！」
「うわあっ!?」
　突風だろうか、ゴンドラが前後に大きく揺れている。不安から隣の慎之介へ手を伸ばしたけれど、彼は跳ね上がるように驚いて、輝夜を認識すると力強く手を繋ぐ。
「大丈夫だ月守、俺に任せろ！」
　さっきの驚き具合と良い、少し大きめの声といい。あまり大丈夫そうには見えないけれど。
　降りるまで英語混じりのしゃべり方をしなくなった彼は、びっくりすることが苦手なのかもと、繋ぎっぱなしの手の指を絡めた。