悩んで、落ちて、襲われちゃう？　ドッキドキの密室15分！｜リアクション

悩んで、落ちて、襲われちゃう？　ドッキドキの密室15分！

　昼間なのに窓は映像の投影のためかシートが貼られて薄暗い。
　真っ暗ではないけれど障子よりも光を通さないそれに、鴻上彰尋の心臓は嫌な音をたてる。
「大丈夫？」
　それでも、この狭い空間に一人きりではないから。
　向かいで緊張した面持ちを見せる七夜あおいが怖がっていないかということが一番気がかりだった。
「怖くないわけじゃないけど、こういうのは叫んで楽しむ物だと思うから」
「大きな音とか、突然飛び出してきたりとか驚くよね」
「そうそう！　でも観覧車の中だし、飛び出すような物なんて」
　――ガンッ！　ガンッ!!
　観覧車の底を何かが叩いている。きっとそう思わせるサラウンドと座席振動なのだろうけれど、会話を途絶えさせるには十分な衝撃だった。
　四方八方から呻き声が聞こえ、何かが這い上がってくるようにゴンドラの周囲をランダムに叩いたり、ぐちゃねちゃと柔らかい物が張り付く音がして。囲まれていると思ったときには扉の窓部分に朽ちかけた手が、べちゃっと押しつけられた。
「きゃああっ!?」
「だ、大丈夫だよ……さすがにゴンドラの中まで入って来れないし」
　言って気づいたけれど、これは映画だと逃げ切れないフラグの台詞かもしれない。
　こんな台詞のあとは必ずと言っていいほど、バリケードが破られるんだ。
　――ガチャッ、ガチャガチャッ！
「ね、ねぇ……ドア、開けようとしてない？」
「まさか……さすがに、そんな」
　それでもなんとなく後ずさって、トンっと背中に反対側の窓が触れた。
　そういえば、這い上がってきたのは複数いたように思うけど――そう彰尋が思うのと、首元に湿った空気がかけられるのは同時だった。
「うわぁああっ!?」
「いやあ!!　下！　足にもなんかいる！」
　ジーンズを履いていた彰尋には大したダメージではなかったが、確かにふくらはぎから足首にかけて柔らかい紐状の物が這う感触がある。素足を出していたあおいにとっては、気持ち悪いことだろう。
　全方向、どこからも襲い来るというなら次はまさか。
　――ガンッ!!
　ゴンドラの上に何かが飛び降りてきたような、大きな音に合わせて座席が振動する。
　今度は何がと身構えたとき、あれだけ取り囲んでいたゾンビたちが消えてしまった。
「……えっ？」
「何だろう、これも演出……かな」
　それともトラブルだろうか。窓に貼られたシートのせいで外の様子が見えなくて、ゴンドラが動いてるのか止まっているのかすらわからない。
　演出じゃないとしたら、あとどれくらいこのままなのだろう。
（いつまで）
　それはものの数分でも永遠の闇を感じたあの時のように、嫌な記憶を呼び覚ますには十分だった。
　泣いても叫んでも、誰にも声が届かない切り取られた空間にいるのは同じではないかと。
（ちがう）
　ここには薄明かりがある。一人じゃないから、震えなくて済む。
　例え、外に助けの声が聞こえなくたって。そこにゾンビより恐ろしい人の顔が浮かんだとしても。
「彰尋くんっ！」
　心配そうな顔をしたあおいが、彰尋の手に自分の手を重ねる。
　いつかの暗闇では光のようだった笑顔を曇らせてはいけない。
「ごめん……びっくりした、だけだから」
　取り繕うように微笑もうとする彰尋を、諫めるようにあおいはその手に力を込める。
「大丈夫じゃないときは、大丈夫じゃないって言っていいんだよ」
　まだ少し怖いけれど、あおいがいるから平気なのも本当で、好きな子の前で格好つけたい気持ちもあるから。
「ありがとう、あおいさん」
　だから彰尋は、そっとその手を握り返して嘘は言わなかった。
　そうして数分後。
　復旧と同時に全面ゾンビに囲まれる惨事に、二人仲良く叫び声を上げることになる。

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