悩んで、落ちて、襲われちゃう？　ドッキドキの密室15分！｜リアクション

悩んで、落ちて、襲われちゃう？　ドッキドキの密室15分！

　この扉が閉まったら。
　手際よく配膳も済まして扉をロックするスタッフの動向を、稲積柚春は緊張して見守る。
　きっと向かいに座るウォルター・Bは、自分の企みなど知っているのだろう。
　ガチャリとしっかりと扉が閉じた音がして、柚春は半円型の小さなガラステーブルに置かれたドリンクに目をやる。
　ブルーキュラソーのシロップにレモンジュースと炭酸で割った、ブルーラグーンというカクテルをモチーフにしたジュースは、二人の瞳の色のよう。
「ウォルターさんはアルコールにすれば良かったのに」
「……取り違えたら大変なことになるでしょ？」
　さらりと、自然に。何食わぬ顔で呼んでみたけれど、彼は訂正しなかった。
　だから、この高級ホテルのような内装の中で夜景を横目に乾杯することが、少し未来のことのような、ドラマのワンシーンのような高揚感を連れてきた。
「こういうのって、本当に大人はするのかな」
　思わずといったように口から出て、柚春はウォルターから告げられた言葉を思い返す。
　あれは、意味を含んでの物ではなかったけれど。
「大事な話をするときの定番というか……プロポーズって、こういう景色に後押しされて言うもの？」
「まあ人気はあるんじゃない？　人生の一大イベントみたいな物だし」
「ウォルターさんは、どんな風に伝えたいとか憧れはある？」
　柚春の真剣な様子を見て、ウォルターはもったいぶるようにドリンクに口をつけ――ニヤリと笑った。
「それは『今』聞きたい？」
　――もう一度、僕に言わせてごらん。
　あれは、可能性がゼロではないと思って良いのだろうか。
「やっぱり楽しみにしてます！」
「そう？　まあ強いて言うなら……Would youじゃなくてWill youって伝えたいよねぇ」
「ええっと、どっちもお願い事をするときに使う言葉ですよね」
「そうだねぇ。『してくれませんか』って丁寧にお願いするか、『しない？』ってフランクに聞いているか」
　意識したことはなかったけれど、改めて言われるとニュアンスが異なる気もする。
　『結婚してくれませんか』はより丁寧でロマンチックに聞こえるけれど相手にお願いをしている分、返答がわからない弱さを感じる人もいるだろうし『結婚しない？』と聞かれれば日常の延長のような、相手が断るわけがないと強気さもあるだろう。
「あの時ウォルターさんは……あれ？」
　もう一度言わせたら勝ちなら、懇願してくるニュアンスが近いのかもしれない。
　答えなんか決まっているでしょうと言い放ったとしたら、それは全く勝てたことにならない気もする。
　でも、あんな不意打ちを絶対に聞き取れたとは言い切れないが、どちらと言うなら。
　思案する柚春を見ながらニヤニヤしているウォルターは、ヒントなどくれそうにもないけれど。
「僕は場所や言葉より、ワットに言ってもらえたら特別になると思うけどな」
　だからせめて、こんな話をして好きって気持ちが溢れてるんだよと伝えたくて愛称を口にする。
　一瞬目を丸くして「ふぅん」と夜景をみるウォルターが赤くなったような気がするのは、内緒にしてあげようと柚春は笑って次の話題を探す。
「そうだ、先生って車は運転する？」
「まあ、しなくはないけど」
「免許をとってウォルターさんを乗せてあげるのもいいし、助手席に乗せてもらうのもいいなって」
　まだ試験場にも通えない齢の、そんな未来があればという話。
「……柚春がハンドルを握って豹変しないなら、それもいいねぇ」
「それ、は！　ウォルターさんだって」
「危ない運転なんてするわけないでしょ、柚春が乗るなら特に」
（わざとだ）
　ハンドルを握らなくたって、彼の違う一面は知っているのかもしれない。