悩んで、落ちて、襲われちゃう？　ドッキドキの密室15分！｜リアクション

悩んで、落ちて、襲われちゃう？　ドッキドキの密室15分！

　――さあやってまいりました！
　寝子島はシーサイドタウン、遠くからでも存在感のある大観覧車が今回の現場です。
　おや？　乱蘭・フローレンスさんは幽霊ではないですかって？
　そうなんです、私、幽霊なんですよ！　つまり、そこ行くアベックと相席できちゃうわけですね！
　ここはひとつ幽霊らしくですね、キャー！　ってさせてみたいと思います。
　幽霊ですからね、目指すはもちろんちょっとやらしい雰囲気です!!

　……などと、どこ向けかわからない実況をしながら乗り場まで来た乱蘭を、スタッフがなんとも言いがたい形相で見つめていた。
　それはそうだ。二名様のご案内と聞いていたのに、その後ろから訳のわからないテンションの女性が一緒に乗り込もうとしているのだから。
（おかしいな、生者には見えないように頑張っていたのに）
　今まさにホラーなゴンドラに乗り込まんとしているアベックは、やっぱりこちらの様子には気づいていないのに、一体何故。
　このスタッフが霊感の類いがあるタイプだったのかと振り返ると、待機列にも眉を顰めている人がちらほらと。つまり、少々はしゃぎすぎたせいで姿を消すことは失敗していたらしいことはすぐにわかった。
（もしかして、あの二人はお互いしか目に入っていないというテンプレでは？）
　あるあるネタなのに見落としてしまうとは、なんたる不覚。いつから周りに見えてたのかはわからないが、まあ見られてしまった物は仕方がない。
　羞恥はあの世に捨ててきた、この世に残りしは煩悩の塊。
　サブカルを満喫し、尊き薄い本を手にするためならば、締切など恐れてはならないっ！
「次の方――」
「あ、はーい」
　夏空の晴天、絶好の資料集め日和。変わり種の観覧車なんて、良いネタになりそうな予感――☆

　そんな少女漫画風な語り口で搭乗しましたゴンドラがこちら！
　ご覧下さい皆さん、この芝生のようなシート！　意外と柔らかくて座り心地も良いですね。
　続いて雲形クッション！　ふっかふかで可愛いですね――誰ですか、私の原稿と同じ色なんて思った人。
　そして見渡す限りの……なんか一杯花！　なんの花でしょうか、ちょっと専門家の先生が留守なので私にはわかりません！
「これが推しのイメージカラーの花に変えたり、推しカプ花言葉の花とかにできたら最高では……？」
　メルヘン空間で可愛い笑顔で微笑む推し。点描の丸や五角形のトーンを周囲に散らせてイチャイチャする推しカプは尊い。まあ推しは存在が奇跡なので、メルヘン空間に居なくても輝くことは間違いないのだけれど。
「いやあ、でも密室とはいえ15分は短いですかねぇ？」
　よからぬ事を考える乱蘭は、コポリと装置が液体を動かした音に気づけなかった。
　不意をついて噴射口からはしゃぼん玉が舞い上がり、より一層愛らしい空間になったことに感嘆の声を漏らす者が多いのだろうけど、彼女は違った。
「グワーッ!?　なんだ突然のバブル光線はっ！　目が……いや、桜吹雪で消える推ししゃぼん玉バージョン!?」
　のたうち回りつつもネタが閃く乱蘭は、それでも実況は止めない。
　さすが解説の乱蘭さん、せっかくのメルヘン空間が一気にオタク視点となりました。
　しゃぼん玉をたくさん浴びて大変そうですが、このゴンドラの感想をどうぞ！
「この雰囲気は、むしろイチャラブより老夫婦とかペット同伴とかによさそうですね」
　ゴンドラのあちこちを観察し終え、シートに座って天使の羽根を背に記念の自撮り。まさしく『昇天』という言葉が似合うのは幽霊の自分を差し置いて他にいないだろう。
　ならば、することは決まっている。
「……疲れたよ」
　幼い聖歌隊の歌声と犬の姿を添え静かに横たわった。

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