悩んで、落ちて、襲われちゃう？　ドッキドキの密室15分！｜リアクション

悩んで、落ちて、襲われちゃう？　ドッキドキの密室15分！

　ゴンドラに乗り込んだ瞬間から、きっと謎解きは始まっている。
　座席や窓を飾る模様がただの飾りとなるのか、今後の重大なヒントとなるのかと目を配り、八神修は印象的な模様や色を記憶していく。向かいでは七夜あおいが問題の書かれた台紙を懸命に読み込んでいるから、あの時と違った15分となりそうだと修は笑みを零す。
「人を楽しませるための謎だから、解けるようにできてるよ」
「頼りにしてるからね！」
「俺もあおいの閃きに期待してるよ」
　知識量があったとしても発想力があるとは限らない。固定概念があるからこそ、隠してしまう視点がある。
　こういった謎解きなら余計に、その視点が違う者が集まったほうが優位なはず。
（それに、あおいと立ち向かえない困難なんてないしな）
　記憶力のサポートには、デジカメも活躍してもらおう。今までのヒントに使った建物と比較なんてことになったら、活躍するに違いない。
　まずは手堅く前半戦。謎解きがどういう形で進むのかの説明も兼ねた簡単な問題が続き、首尾良く回答をしていくとその答えがゴンドラの中に設置されていた宝箱の解除コードとなっていて次の問題用紙を入手できた。
　そこまでは良かったのだけれど、後半戦は一筋縄ではいかないようだ。
「窓の外を見ろ……って書いてるんだけど、この窓ってどの窓だろう？」
　前後左右、それこそ頭上と足下以外はガラスで覆われている。窓と呼ぶなら全部が窓だ。
　ただ、今までだって外の景色からヒントを探していたのに、今更なんだってこんな指示が？
「窓の外、まどのそと……まど、の、そと、を……」
　ゆっくり区切って、その言葉にヒントがないかと修は何度も繰り返す。
　窓の外と言えば、このガラスの向こう側か。それとも、窓が何かを比喩した言葉か。
「窓枠の繋ぎ目だってそんなにないし、窓の外側ってなんだろうね？」
「……窓枠？　窓の、枠…………それだっ！」
　乗り込んだときにゴンドラの全体を見回して、装飾があることを確認した。座席や扉や天井に至るまで、大小様々な記号が飾られているけれど。窓に飾られているのは同じ色の同じ記号。
「これだよ！　あおい、問題用紙にこれはある？」
　あおいのすぐ近くの記号を指さそうとして、修は距離を詰める。
　彼女の肩越しにあるそれは、確かにあおいが首を少し捻れば見える、一番近い記号だ。でも、いつも紳士的な彼が急接近するものだから、あおいは驚いて反応が出来ない。
　謎解きに夢中で距離に気づかない修は、自分の説明が足りないのかと解き方を続ける。
「きっと『窓』の模様で『枠』を作って外側を読めば……！」
「っ、やってみる！」
　あおいは修に見守られながら問題用紙の両面を確認し、同じ色の同じ記号を探し出して。指でなぞりながら、その外側にある言葉を拾っていく。
「は、ち、が、つの、わ……め、い……八月の和名だ！」
　言葉として成立したならば、解き方は間違いない。
　問題としては簡単なのに、出題方法がこんなにも手こずらせるなんて。
「なら答えは葉月だな！」
「やったね、修くん！　でも、あの……そろそろ」
　ちょっと近いかなぁ、なんて恥じらうあおいを前にやっと体勢を理解した修は、スッと斜向かいに鎮座する。
「えっと、そんなに離れなくても……？」
「反省とクールダウンの距離だから、気にしないでくれ」
「そ、そう？」
　無意識とはいえ、信頼を寄せてくれている彼女に無遠慮に立ち入っていい距離じゃなかった。
　それは大前提として、意識をしてくれたことは正直に嬉しい。
　雑念と煩悩を払うかのように長い長い息を吐いて。
「さあ、残りの問題も解いてしまおう！」
　修は出来る限りの爽やかな笑顔をして見せた。