悩んで、落ちて、襲われちゃう？　ドッキドキの密室15分！｜リアクション

悩んで、落ちて、襲われちゃう？　ドッキドキの密室15分！

　一目会えるだけでも運命だと思ったのに、観覧車に誘うことができて。
　夜のシーサイドタウンを、二人っきりで眺める――そんな、乙女なら憧れそうなシチュエーション。
「ほら、足下に気をつけるんだぞ」
　桐島義弘がゴンドラの中から手を伸ばす。彼の周囲がキラキラと輝いて見えるから、宮祀智瑜も吸い込まれるように手を重ねて乗り込んだのだけれど。
　薄暗いシートを貼られた窓からは、綺麗な夜景など仄かにあるのがわかる程度。非常灯の代わりなのか少しレトロな電球を思わせる温かみのある色が、互いの顔を確認できる程度の明かりで照らしていた。
「お化け屋敷と言っても、暗いだけなんですね？」
　もっと、荒れた墓や壊れたフェンスなど怖い物がいっぱい描いてあるのかと思ったけど、ゴンドラ内に異常はない。
　あまりホラーが得意でない智瑜は、このゴンドラしか空いてないと聞いたときはどうしようかと思ったけれど、これなら大丈夫そうだと安心した。
「義弘先生は怖いの得意ですか？」
「全てに原因はあり、未知だから恐れるんだ。近年は科学的に証明された現象も多いだろう」
　キリッとした顔で語る義弘は、万が一ゾンビに襲われても頼りになりそうで安心する。
「……？　先生、何か呟きました？」
　小さな声が、断続的に聞こえる。けれど義弘は心当たりがないように首を捻っていて。
　次第に声が近くなったと思ったら、ゴンドラの底が、扉が叩かれる。座席を響かせるような音は、窓でも叩かれれば割られてしまいそうな強さだ。
「えぇ!?　ぞ、ゾンビが這い上がってきてる？」
「鳥が複数ぶつかる確率……夜半に飛ぶことを考えると低いな。ならば人が登ってくる確率は」
　ブツブツと考え込んでしまった義弘が計算を終える前に、窓の外にはぬらりとゾンビの手が這う。べっとりとした手形をつけ、右往左往する手から逃れようと智瑜はしっかりと目を逸らさず後ずさったのだけれど。
「宮祀っ！　後ろだ！」
「……っ、いやぁああっ！」
　智瑜の背後の窓には、既に顔まで登ったゾンビがニタニタ笑っている。真っ白い感情のない目を細めて呻くと、首元に湿った空気がかかって窓が僅かに曇った。
　見たものと感触がリンクされると、現実との境目がわからなくなる。智瑜は助けを求めるように義弘へ抱きついた。
「先生、今っ！　ゾンビの息が、窓がっ!!」
「落ち着け宮祀、窓は割られていない。ゴンドラを囲まれただけだ」
　前後にも左右にも。それから――ドンッと大きな音を立てて地響きのような揺れ。
「……今度は上か。だがゾンビは往々にして知識を持ち合わせていないはず、鍵を解除することなどない」
「先生、離れないでくださいね。絶対ですよ！」
　ぎゅうっと強く抱きしめられ、智瑜の豊満な胸を押し当てられれば咳払いをしたり落ち着くように諫める義弘ですら、窓ガラスが割れてしまう確率や、ゾンビから逃げ切れる確率などを計算している。
（もしかして、義弘先生も本当は怖いのかな？）
　それを隠すために計算に夢中になっていても、本当に助けようとしてくれてても、どっちも素敵であることには変わりない。
　彼への想いは高まるけれど、ゾンビの群れも手を休めてはくれない。次第に窓にヒビが入り絶体絶命――覚悟を決めて二人が強く抱き合えば、観覧車の扉が開く。
　そうだ、どんなにリアルだったとしても『お化け屋敷』だ。
　照れくさくなりながら降りたけど、暗い夜道にふらっとゾンビが現れないかと思えるくらいの余韻も残っていて、義弘を仰ぎ見る。
「……義弘先生、家まで送ってもらえますか？」
　咳払いをした義弘は、旧市街へと足を向ける。
　その速度は、智瑜がすぐに追いつけるスピードだった。

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