寝子島あやかし譚　七人ミサキ｜リアクション

寝子島あやかし譚　七人ミサキ

　　　エピローグ

「時計を見たら、二時前だった」
　莉鳥にとっては、僅か一時間半の出来事だった。本当に終わったのか、と蒼留人は呆然としていたが、我に返ったのも彼が最初だった。
　気絶している滴に駆け寄り、抱き起こす。ううん、と滴は唸った。傷は負っているが――傷つけたのは蒼留人だが――、命に別状はなさそうだ。
　それでも念のため、病院に連れて行くことにした。どう説明したものかと悩んでいると、知らぬ存ぜぬを通せと歩が言った。普通の人間には理解できることではないし、真実を知ったところで滴もいい気はしないだろう。
　結局、倒れている滴を蒼留人と莉鳥がたまたま見つけた、ということにした。
「七人ミサキはどうなったんですかね？」
と、巧は尋ねた。さあ、と莉鳥はかぶりを振る。
「取り敢えずは霊界に帰ったんだろうけど……」
　成仏したわけではないだろう、と歩は言っていた。この先、遭遇する人間がまた出る可能性は大いにある。
「でも、猫又川の辺りを歩けば必ず遭うってわけじゃないんですよね？」
「多分ね。何か条件があるんだろうけど……」
「それですよ」
　巧はにんまりとした。
「僕が思うに、いくつかありますね、条件。一つは時間」
　確かに七人ミサキが昼間に出たという話はない。早くても夕方以降だ。
「もう一つは、刃物」
「刃物？」
「そう。出会った人間は、多分全員、刃物を持っていたはずです」
「……私は持ってなかったけど？」
「多分、最初に出会った人が持ってたんですよ。黒白さんと、もう一人いたんですよね？　その人が持ってたと思います。でも、やられたのは黒白さんだった。黒白さんは刃物を持っていなかったようだから、入れ替わった着物の人の武器を譲ってもらったんじゃないですかね？」
　譲ってもらった、という言い方がおかしくて、莉鳥は眉を寄せた。
「一回出てきたら、多分夜明けまでずっとうろうろしていて、獲物を探すんですよ。ほら、十六年前の女子高生と小学生は同じ日でしょ。どっちが先かは分からないけど」
　新聞記事のデータを見せながら、巧は言った。
「だから、最初の一人以外は持ってても持ってなくても関係ないんです」
「随分と適当ね」
「本当のところは分かりません。本人たちに聞かないと」
　巧は軽く、肩を竦めた。「聞ければ、ですけど」
「会いたくもないわ」
「そこですよ！」
「そこ！　静かに！」
　巧の声に、叱責が飛ぶ。すみません、と巧は首を竦めて、声を落とした。何しろここは、図書館なのだ。大声を出す場所ではない。
「どういうこと？」
　莉鳥も声を小さくし、身を乗り出した。テーブルを挟み、莉鳥と巧は顔を近づける。二人は、ぼそぼそと会話を交わした。
「七人ミサキの危険を避けるためにも、噂をちょっと変えたらどうですかね？」

　いつの頃からか、猫又川には不思議な噂が流れるようになった。
　夜になると、亡霊の集団が現れ、遭遇した人間を襲うというものだ。
　一人は修験者、一人はサラリーマン、一人は主婦、一人は小学生、一人は着物姿の女性、一人は軍人、そして最後の一人は男子高校生。
　彼らは出会った人間を殺し、成仏する。殺された人間は、彼らと共にさ迷い、獲物となる者を探す。
　亡霊の名は七人ミサキ。出会ったら最後、助かることはないだろう。
　七人ミサキに会わないためには、日が暮れたら決して猫又川に近づいてはならない。どうしても通らなければならないときは、刃物を持っていてはならない。
　もし、持っていると、こんな音が聴こえてくる。

　――からん、ころん。かららん、ころん。

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あとがき

担当マスター：泉楽
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お待たせしました。「七人ミサキ」リアクションをお届けします。
ご参加の皆様、ありがとうございました。

アクションをメインに書きましたが、どうでしたでしょうか。今回は三人ということで、うまく連係プレイを取れたんじゃないかと思います。
さすがに朝まで戦うのは無理な気がしたので早めの時間に決着を付けましたが、七人ミサキはある意味無敵なので、倒せたわけではありません。これからも、通りがかりの人間を襲い続けるでしょう。
世間一般（？）の七人ミサキと比べ、寝子島の七人ミサキにはいくつか違いがありました。それを出すためと、物語の導入としてNPCの稲門巧を出しました。もっとも、彼が推理した条件が合っているかは不明ですが。
何にせよ、七人ミサキは最も会いたくない妖怪の一つですね。

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