夏の林間学校、いざゆかん歴史と美食の郷！｜リアクション

夏の林間学校、いざゆかん歴史と美食の郷！

「……ふわぁ、まずは朝ご飯ですね～」
　心地よい目覚めを迎えた紫苑は身支度を終え、さっそく昨日準備しておいたフレンチトーストの調理を始めた。
　じゅわ～っと、フライパンからはバターの焦げる匂いが漂う。
「う～ん、いい香り♪　後は、ハムやお野菜を入れたオムレツも作っちゃいましょう。後は、直火で炙る焼きおにぎりと～、それから～」
　紫苑が甘じょっぱいフレンチトーストにぱくついていると、美味しそうな匂いにつられて、他の人もフラフラとやってきた。
「あ、一緒に食べますか？　大勢で食べるのもキャンプっぽくて良いものですしね」
　そんな訳で、紫苑の元には腹ぺこの学生達が訪れ「このジャムと交換で焼きおにぎり下さい」とか「洗い物しますからフレンチトーストを頂きたい」などと言うので、労力と物資が集まってきた。
「あ、あの！　この魚と交換で、全メニュー下さい！」
　もちろん、朝食後の釣りを終えた遠海も引き寄せられてきた。

　――しかし。

「構いませんけど……今ちょっと調理場が無くて……」
　紫苑は困ってしまった。
　何せ、アヒージョにパエリア、ダッチオーブンを使った煮込み料理まで並行して調理しているのだ。
　単純に、火が足りない。
「分かった。焼き魚は私が作るね！」
　そう断言した後の遠海は速かった。よそのテントから火と焼き網を借りてきて、あっという間に量産体制に入ったのである。
　紫苑と遠海は目を合わせて、固く握手を交わした。

◆

「おい彰尋、朝飯食いに行こうぜ」
　朝食にはホットサンドでも作ろう、と思っていた彰尋が、友達の誘いで出かけると。

　――キャンプ場の一角が、ちょっとした宴会場のようになっていた。

「おはようございます。物資はお持ちですか？」
「はい！　俺は乾そばです！　お前はゆべし持ってきたよな？」
「あぁ、そうだけど」
　会場の入り口で行列を整理していた生徒に、お土産として買っていたものを渡すと、どこかへ運ばれていく。調理を希望するかと聞かれたので、ホットサンドを作りたいと伝えると、火の前に案内されたのだ。道具も材料も準備万端の状態で。
「ＢＬＴサンドでも作ろうかな」
　友人にせがまれたので２人分作ると、彼はどこからか温かいスープと炙ったマシュマロを持ってきてくれた。
「……うぅっ、熱々のトマトがうめぇよ、彰尋ぉ……ベーコンが最高だよぉ」
「ありがとう。俺もマシュマロうまいよ」
　泣きながらホットサンドにかぶりつく友達に苦笑しつつ、彰弘も串にさしたマシュマロを食べる。
　外はこんがりで、中はトロける、あつあつの甘さが染み渡る。
「スープも絶品だな。どこから貰ってきたんだ？」
「あぁ、それ？　智依子ちゃんっていう可愛い子が作ってくれたんだぜ。『熱いから気をつけて下さいね』って、優しく心配してくれてさ……女神だぜ」
　ホットサンドを食べ終えた後は、焼き魚や食後のコーヒーを楽しみ、「智依子ちゃんの調理補助になる！」と意気込む友人を見送り、彰尋は料理を振る舞う側になったりもした。
「すごい。行列をさばく人、材料運ぶ人、調理する人がぐるぐる入れ替わっているなぁ」
　驚いて目を丸くする彰尋の前で、「カステラ焼き上がりましたー！」「ポトフ完成です！」の声が聞こえるたび、整然と列が動く。
　のちに、調理の素早さやおいしさなどの理由で、彰尋、紫苑、遠海、智依子の４人は『朝食神』とあがめられることになるのだが――今の彰尋は、それを知るよしもなかった。

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