モフれ！第３６回寝子ヶ浜ビーチ☆スターズコンテスト！｜リアクション

モフれ！第３６回寝子ヶ浜ビーチ☆スターズコンテスト！

●今年の寝子島はけものブーム？

「今年の寝子島はけものブームだって？」
「そうだったんだ。うちの店でも妙にケモ耳やしっぽをつけたりするのが流行ってると思ってたけど」
　長い黒髪。妖艶な肢体。海を渡った本土、木天蓼市内の水着ガールズバー「ジュエル」のキャスト、兼、副店長でもある真境名アリサは、寝子ヶ浜海岸において独特の迫力を放っていた。
　本日の水着は『けもの』にちなんで、ヒョウ柄のちょっとカッコイイ感じのものだ。
　アリサは身を捩ってすこしセクシーなポーズを作った。
　彼女はいわばプロ。身体を見せることになれている。
　アリサといっしょにいる仕事仲間の女性たちも同様だ。
　水着程度で恥ずかしく思うようでは仕事にならない。
　むしろ、室内で水着より、砂浜で水着のほうがずっと自然だ。
　そんなわけで、アリサはじめジュエルのキャストのお姉さまがたは、たいそうリラックスして観客席に陣取っているのである。
　
　コンテストは始まったばかりで、ステージに呼ばれた参加者たちは、空気が温まり切っておらずに恥ずかしそうだ。そんななか、ジュエル一行は、ステージ上の水着姿を見て品評会よろしく盛り上がっている。
「あの子スタイルいいし、水着のセンスもいいよね。後で声かけよう」
「残念、まだ高校生かー」
　お店に出るのは成人してから。下手に誤魔化してお縄になったり炎上したら、せっかくの『大人楽しいワールド』が壊れてしまうからルールは守る。そういうところもプロである。
　そんなふうに盛り上がっていると、実行委員の腕章をつけた男子大学生――海原茂が、眼鏡を光らせてアリサのほうに近づいてきた。
「すみません、あの」
「あっ、ごめん。うるさかった？」
「いえ。そうではなく、あなたの素晴らしい水着姿を見込んで、ぜひコンテストに出場していただけないかと」
「あはは、君、眼鏡がギラーンって光ってたから、怒られるのかと思った。そういうことならいいわよ」
　ノリのいいアリサはあっさりＯＫする。
（たしか去年もこんな感じで出場することになったっけ）
　なんとなく見つけられてしまう。
　人生、そんなものかもしれない。

　ステージに立ったアリサはヒョウ柄の水着を見せつけるように立った。
（ま、このくらいはね）
　堂々と慣れた感じでウォークしてステージ中央の前の方までゆくと、すこし太腿を重ねるようにしてセクシーに立ち、髪を掻き上げる。
「アリサです。大人のみなさん、木天蓼市の『ジュエル』に遊びに来てね。では一曲歌わせていただきます！」
　ステージサイドの音響席に目線で合図すると、流れてきたのは数年前に大流行した景気のいいポップス。
　いまではすっかり、夏の海といえばこれ、という定番曲になっている女性シンガーの名曲で、夏の片思いが叶うという恋を歌った曲である。
（この曲、高校の頃よくカラオケで歌ってたから得意中の得意なんだ）
　マイクを握れば、気持ちはあのころに戻るよう。
　爽快感溢れる歌声が会場に響き渡り、観客たちが、夏を実感していくのが肌でわかる。
（うん。会場、あったまってきたみたい）
　曲が終わって盛大な拍手が起こる。
　そう、さいごはなにか何かモフーなアピールって言ってたはず。
　アリサは高く拳を突き上げ、いま恋しているだろう――あるいは、恋の入り口に差し掛かっていてみずからを持て余しているかもしれない青年乙女たちに力強く眼差しを向ける。