夏の花見｜リアクション

夏の花見

　太陽が真上に上がりきる少し前。
　それでも容赦なく照りつける日差しは地面をも味方につけて、上下から熱気が襲い来る。
　ある家ではエアコンがフル稼働かもしれないし、ある家では全開の窓とレトロな扇風機が頑張っていて、氷菓子が美味しく頬張れるかも知れない。

「いってきまーす！」

　そうしてある家の前では、ハイキングに適した服装で元気に曾祖父母へ手をふる小さな子がいて、姉のような、でも母の顔をした少女が小さな子が走り出す前にとしっかり手を繋ぐ。

　どこかでは平々凡々とした少年が、ふらりと散歩でもしようかと目的地も定めず寮を出て、きっとこの炎天下の中でもあの人は元気なんだろうなと笑みをこぼす。
　同じ年頃の少年はデジカメのバッテリーやメモリーカードをチェックして、夏らしく・部活動に貢献でき・思い人の笑顔に繋がるもの、を冷静に分析して目的地を定めた。

　ある少女は、じわじわと滲む汗のように不安が心の端を侵食した気がしたのだけれど。
　全ては暑さのせいだ！　と、はね除けるように立ち上がると、気分転換に最良の場所を思い出す。

　冷水のシャワーを浴びて気だるげなため息をつく少女は、どう時間を過ごせばいいのかわからなかった。"ここ"は帰る場所になりつつあるけれど、穏やかな時間など数えるほどしか過ごしたことはない。
　とはいえ今日は貪り合うのも飽きた。かといってシャワーを浴び続けるわけにもいかない……もう何度目かのため息をついて切り上げることにした。

「気がすんだ？」

　幼い顔立ちはシャワーを占拠されたことに怒りを表しているわけでもなく、話せるのを待っていたという風でもなく。ねこったーが表示されたスマホをひらひらさせて、ただ淡々と続ける。

「夏の花を見に行かない？」

　寝子島の中心であり島民にとって心のふるさとな九夜山。
　そこでは、ヒマワリやユリといった夏の花が見頃を迎えていたのです。

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