夏の花見｜リアクション

夏の花見

　ゆったり山道を歩いて夏の花を観賞し、知る人ぞ知る喫茶店で比較的優雅にティータイムを過ごし。
　道中で撮った写真や頼んだメニューの写真をまとめて、どんな報告をしてみようかと考えていた佐藤英二は、窓の端で何かガサガサっと大きく揺れた気がした。

（風でも出てきたのかな？　山の天気は変わりやすいっていうし、早めに寮に戻ろう）

　そう思って会計を済ませて外に出れば、眩しいくらいの晴天。ねっとりとした夏特有の湿度をまとった空気がまとわりつき、涼しい風なんてそよいですらいない。

「あ、あれ……？」

　確かに、花が揺れているのを見たと思うのだけれど。
　少し気になって、建物の位置から自分が座っていた席と窓の位置、それから揺れていた花の方角を考えて、そちらに向かってみることにした。
　そこはだんだん道らしい道も無くなり、胸の丈ほどの草も生い茂ってきている。所々に咲く花に見とれて深入りすれば帰ってこられないかもしれないし、そこそこにして切り上げよう。
　そう思った矢先、

　――ガサガサガサガサッ！

「や、やっぱり何かいる！？」

　猫、にしては大きい。まさか猪……山だしありえる！
　見つかってないであろう今なら逃げられるか、でもどこに？　物陰に仲間が潜んでないとも考えにくい。

　――バッ!!

　突如上空に飛び上がる影。英二はある程度の衝撃を覚悟して両腕で頭を覆った。
　
「……およっ？　英二君？」

　髪にいくつもの葉や花をつけた野々ののこが、不思議そうな顔をしている。花畑を駆け巡っていたのだろう様子がすぐに浮かんで、猪に襲われる原因が無くなったと英二は安堵した。

「や、やあ。野々さんも散歩？」
「ううん、探検！　みんなの知らないお花畑を見つけようと思って。……帰って来れないかと思ったけど」
「あはは……九夜山は広いからね、気をつけないと」
「でもすっごかったんだよ！　こーんないっぱいね、赤とか黄色とか……オレンジもあった！　すっごくかわいいお花！」
「その、髪についてるやつ？」

　一言断って、花をスマホで撮影する。あとはそのまま画像検索をすれば、なんの花か教えてくれるのだから便利な物だ。

「ポーチュラカ、かな……あはは、野々さんみたいな花だ」
「かわいい？　きれい？」

　にししっと冗談めかして笑う姿に、『いつも元気』という花言葉がとても似合う。
　似合いすぎて、冗談半分でかわいいというのですら、なんだか恥ずかしい気がした。

「泥汚れを落として擦り傷の手当てをしたら考えるよ」
「ええ～？」

　ののこが見つけた花畑も気になるけれど、また迷っては大変だ。
　英二は先ほどまでいた喫茶店の話をしながら、ののこを迷子にならないところまで送っていくことにした。
　店内の飾りも、店内から眺める外もお花だらけで、お花のモチーフやエディブルフラワーをあしらったスイーツのあるお店。花畑を探しに冒険に出たののこはとても興味を示したのだけど――。

「お花って食べられるんだ!?　甘い？　美味しい？　さっきいっぱい食べておけばよかった」
「危ない物もあるから、野草は食べるどころか不用意に触っちゃダメだからね？」

　彼女は花より団子、なのかもしれない。

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あとがき

担当マスター：浅野悠希
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みなさまご参加ありがとうございます、浅野です。
久しぶりのシナリオで、至らぬ所もあるかも知れませんが、皆様のよき夏の思い出になっていれば幸いです。

花言葉は図鑑によっても違いますし、真逆な言葉も載っていたりで、選ぶのを迷ったりもするのですが、
今回は夏の花から、見た目も合わせてお似合いになりそうな物を選んでみました。

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