夏の花見｜リアクション

夏の花見

　花を見ようと誘ったのは確かに姫木じゅんのほうだけれど、遠目に少し見て暑いから帰ると言い出してもおかしくないだけに、彼女の服装は少し意外だった。
　足下は一般的な靴と比べると多少は厚底であるものの、彼女の普段の装いから比べればヒールはだいぶ低く、レースなどがふんだんにあしらわれたデコレーションスニーカー。それからギャザーは細かい物のパニエを仕込まずボリュームが抑えられたスカートは歩きやすそうだ。一分袖に長めの手袋を合わせたり、全体的にゴシックロリータな装いではあることは変わりないのだが、幾分か甘さを抑えてアクティブな印象だった。
　彼女なりに気を遣って、この時間を楽しもうとしてくれている……のかもしれない。
　それに比べて、朝鳥さゆるはじゅんの気まぐれにどう対応して良いのかわからず、それこそ近くのコンビニへ行くかのようなラフな服装を選んだ。元々大人びた風貌の彼女には、それくらいシンプルでも格好良く着こなせるスタイルを持ち合わせており、夏のファッションモデルと比べても遜色ない。

　ロープウェイを降りると、九夜山は夏の花の香りに満ちていた。
　じゅんは目当ての花でもあるのか、スマホをみながら歩み進めていくけれど、さゆるはやっぱり暗い時間や閉じた空間に馴染みがあるためか、違和感が拭えない。

「ねえ、じゅん……あたしたち、こんな風に穏やかな時間の中で一緒にいるなんて、案外少ないよね」
「そうだっけ」

　舗装された道を外れ、じゅんは花畑のあぜ道に入り込む。
　興味なさそうに返された言葉に、さゆるは言葉を詰まらせた。

「あんたが、顔を上げなかっただけじゃないの？」

　花畑の中で伸びをして、花の香りを満喫しているじゅんがどんな顔で言ったのかはわからない。
　いつもより快活な格好で連れ出した意味があるのか、と様子を窺ってしまう。

（顔を上げれば、何が変わるの……？）

　例えば寒い公園で、補導員より厳しい表情をしている所とか。
　消毒薬の匂いに包まれた白い部屋に、明るいガーベラがあることはわかるかも知れないけど。

「あれかなぁ……ほら、こっち！」

　すたすたと歩き出すのには理由があって、じゅんが指さした先には小さな建物があった。
　花に包まれた喫茶店――可愛らしい女の子が好きそうな場所だ。店内の優しい華やかさに、さゆるは自分との縁遠さからメニューを見るのもそこそこにオススメを頼んだ。じゅんもそれに便乗する。

　そうしてして運ばれてきたのは、赤やピンクの星形をした元気な印象のあるルコウソウに見立てた飾りをあしらった小さな半円型のケーキと、真っ白で凜としたチューベローズに見立てたミニパフェだ。中のゼリーに砂糖を使っていないからお好みでと添えられたシロップは、少しエキゾチックな甘ったるい香りがする。

「人から見たあたしって、こんななの？」
「外側しかわからないしね」

　まあおいしければいいか。深く考えず食べ始めるじゅんに、さゆるは何かを伝えたかったのだけど。
　こんな明るい時間に普通の場所で、二人で穏やかな時間を過ごせることが久しぶりで……この気持ちを言葉にまとめるのは難しかった。

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