南紀白浜を臨海学校で味わい尽くす！｜リアクション

南紀白浜を臨海学校で味わい尽くす！

　何度も読み返したパンフレットはかなりくたびれた状態になっていた。最後の復習として佐藤英二は全てに目を通した。
「あとは野々さんか」
　やや沈んだ声でホテルの部屋を出た。直後に横手から元気な声が飛んできた。
「英二くん、まだいたんだね！」
「あ、野々さん。あの、これからの予定とかは、あるのかな」
　いきなりの出会いに少し声が震えた。
「ないよ」
　野々ののこは笑顔で即答した。
「よかったら僕と一緒に南紀白浜アドベンチャーワールドに行ってくれないかな」
「動物園でライオンのガオーとかが見られたりする？」
「可能性はあるね。それだけではなくて中には遊園地の施設もあるよ。イルカやペンギンもいて水族館としても楽しめる」
「へー、そうなんだ。英二くんと一緒なら何でも教えて貰えそうだね」
　ののこは弾む声で言った。
「何でもって訳にはいかないけど」
「今日のデート、よろしくね！」
「え、デート、それはどうかわからないけど、その、こちらこそ、よ、よろしくお願いします」
　極度の緊張を和らげるようにののこは英二の後ろに回って押し始めた。
「早くいかないと時間がなくなるよ」
「そ、そうだね」
　英二は自然な笑みを取り戻し、揃って出かけた。

「象がいるよ！　ラクダもいるし、向こうには馬がいる！」
　ののこは園内に入った途端、頭頂から飛び出た毛をブンブンと振り回す。
「順番に見て行こう」
「あっちにはパンダがいるんだって！　遠くに観覧車が見えるよ！」
「うん、そうだね」
　英二はにこやかな顔で付いていく。はしゃぐ子供を優しい眼差しで見守る父親のような状態だった。
「早くしないと！」
　ののこは英二の手を掴んだ。引っ張られる姿は付き合い始めたばかりの恋人のようだった。