南紀白浜を臨海学校で味わい尽くす！｜リアクション

南紀白浜を臨海学校で味わい尽くす！

　ホテルの従業員から聞き出した情報を元に巫部紫苑は徒歩の移動を開始した。手始めに近くのラーメン店に足を運んだ。
　案内されたカウンター席に座った。手前に置かれていたメニューを開き、じっくりと読み込んでにっこり微笑む。
「豚骨醤油濃厚ラード掛け厚切りチャーシュー摩り下ろしニンニク山盛りスペシャルをお願いします」
「え、はい？」
　厨房にいた店主は紫苑を何度か見た。腑に落ちない様子で作り始める。
「楽しみです」
　運ばれてきた水で喉を潤し、うきうきした状態で完成を待った。
「熱いので気を付けて食べてください」
　置かれたラーメンから白い湯気が立ち昇る。器に収まり切れないチャーシューは扇のように開いていた。白濁としたスープにはカイワレ大根が盛られ、張り合うようにニンニクが主張した。
「良い香りです」
　割り箸でニンニクを崩し、麺と絡めて啜る。音を立てず、摘まんだチャーシューを口に含んで噛み締めた。
　薄っすらと笑みを浮かべた状態で食べ進める。口直しとばかりにレンゲを使ってスープを飲んだ。
　バランスよく食べて物の数分で平らげた。ネギを刻んでいた店主はちらりと見て、ほっとした表情を浮かべる。
「二杯目は塩豚骨ゴマ風味野菜全部入れでお願いします」
「ええっ！？」
　店主は心底、驚いた。二度、三度と続いたことで全てを受け入れた。感情を置き忘れた状態で淡々と仕事をこなし、にこやかに店を出ていく紫苑を呆然と見送った。

　次に訪れた和食の店では海鮮丼を注文した。旬の魚介が溢れんばかりに盛られていた。当然というように食べ切ると別の丼に目を向ける。
　休むことを知らず、丼を食べ続ける。それが終わると定食に移った。
　店内にいた客がざわつき始める。置かれたメニューを何度も見た。
「これって端から順番に頼んでいるのか？」
「もしかして全メニュー制覇！？」
　注目を一身に浴びた紫苑は、美味しいです、と口にして幸せを噛み締めた。

　渡り鳥のように紫苑は店から店を渡ってゆく。不思議なことに体型は崩れず、溢れる食欲は一向に収まらない。
　徒歩が影響したのか。移動時にするストレッチの回数が増えてきた。
「ふぅ～、温泉が必要ですね」
　紫苑は方向を変えた。海へ向かって元気よく歩き出した。