南紀白浜を臨海学校で味わい尽くす！｜リアクション

南紀白浜を臨海学校で味わい尽くす！

　生徒達が出払ったホテルに万条幸次が早々と戻ってきた。のんびりとした様子はなく誰かを探すように方々を歩き回る。
　内部にある喫茶店にも当たる。暗い顔で覗き込むと一瞬で明るい笑顔に変わった。窓際のテーブル席に相原まゆを見つけた。
「まゆちゃん先生！」
　喜びを抑えられない幸次は速足で向かう。
「幸次君、どうしたのよ。汗だくなんだけど」
「買い物で少し走ったせいかも」
　言いながらポケットからハンカチを取り出し、顔や首の辺りを拭う。
　まゆは正面の空いた席に手を向けた。
「ここに座って。立ち話をするのもヘンよね」
「ありがとうございます」
　勧められるままに腰を下ろす。ハンカチをポケットに収めると幸次は表情を改めた。
「まゆちゃん先生、水泳の個人レッスン、ありがとうございました」
「何よ、改まって」
　面映ゆい顔でまゆはティーカップの紅茶を飲んだ。
「昨日の遠泳はよく覚えてないんだけど、ちゃんとゴールしたみたいで」
「そうだね。よく頑張ったと思うわ。あたしの指導の賜物よね」
　大人の貫録を見せつけるように言った。
「それで、あの、これを受け取ってくれますか？」
　幸次は小さな紙袋をテーブルに置いて前へ押し出す。手にしたまゆは開けて中身を取り出した。
「貝殻のキーホルダーだけど、これをあたしに？」
「そうです。是非、受け取ってください。俺、一年の時には全く自信がなくて。あのレッスンがなかったら、今回だってゴールできなかったと思います」
「それだけの努力を幸次君がしたからよ。これは有り難く受け取っておくわ」
「本当にありがとうございました」
　幸次は頭を下げた。汗で濡れた髪を見てまゆは店員を手で呼んだ。
「最後のレッスンよ。運動のあとはちゃんと水分補給をしないとね」
「あ、でも、俺はお金がもうなくて」
「これは大人のあたしからのプレゼントよ」
　まゆは子供っぽい笑顔を見せた。