南紀白浜を臨海学校で味わい尽くす！｜リアクション

南紀白浜を臨海学校で味わい尽くす！

　一年の女子が波打ち際に出揃う。不安を声にしていた者も口を閉ざした。
　スターター役の相原まゆが波に踝を浸した状態で立った。口にはホイッスルを咥えている。その状態で右手を垂直に上げた。
　笛の音と共に右手を振り下ろす。飛沫を上げて女子が一斉に海へと駆け込む。
　月原想花はおろおろした状態で残る。眼鏡は掛けていなかった。海の方を睨むようにしてようやく走り出した。
「こんな何も見えない状態で遠泳をするなんて、どうかしているんだよ！　もうね、どうにでもなれって気分なんだよ、ぼくは！　やけくそなんだよ！」
　噴出する怒りを撒き散らして海へと突っ込み、頭から飛び込んでいった。
　先頭集団は縦長に変わる。距離に比例して力の差が見えるようになってきた。
　その中に篠原翠響の姿があった。荒々しい泳ぎとは真逆で背筋は伸び、腕の動きは滑らかで波飛沫がほとんど上がらない。絶え間なく起こる小波を切り分けるようにして進んでいく。
　新体操で身に付いた物なのか。その整った泳ぎ方に周囲の目にも留まる。立ち泳ぎで休んでいた女子が見惚れるような眼差しを向けた。
　翠響は折り返しのブイを回る。速度に乗って綺麗なクロールを続けた。先頭と並ぶようにして立ち上がる。ツインテールを軽く手で絞った。
「こんなもんなのね」
　後ろを振り返る。物足りなそうな様子で砂浜へ歩いていった。
　梓智依子は中間辺りをゆっくりと泳ぐ。午前のビーチ・フラッグスの疲れが残っているようで同じペースを刻んだ。残りの距離が少なくなっても慌てない。同じ速度を維持して泳ぎ切った。
　ボート上で生徒達の状態を見ていたライフセーバーの一人が立ち上がった。速やかに海へと飛び込み、暴れる想花の背後に付けた。素早く片腕を回してボートへと戻る。
「……あれ？　ぼくは、どうなったのかな？」
　ぼんやりした意識の中でゆらゆらと揺れる波を眺めていた。