霊界おうち探訪！｜リアクション

霊界おうち探訪！

〇三毛谷の家

（記者がまさか家を訪ねてくるとはねぇ）
　猫又の三毛谷道哉は、取材に訪れた雑誌記者を平屋建ての古民家に招き入れた。
「この表札、自作なんだよ。中々だろう？」
　門の表札を見せて得意げに言った後。
「よくある古民家だが楽しんでいっておくれ。丁度お客がきているし、彼らにきくのもいいかもね」

　家の中では、天狗や幽霊などが思い思いにくつろいでいた。
　畳張りにちゃぶ台や古時計のある居間で、記者は矢立と紙を取り出す。
「お客様にも後でお話を伺うことにします。いいお家ですね。どのような経由でこちらに？」　
　記者の問いに道哉は答える。
「ここは元空き家で、住めるように手直ししたんだ。霊界にきて暫くは猫らしく境内の下やよそ様のお宅に失礼して暮らしてたんだが、それにも飽きてね」
「飽きた……それはどういうわけで？」
　少し考えて道哉は答えを出した。
「過去に家猫でもあったのと……人が好きで仕方ないから、かな。彼らの気持ちになってみたかったし、文化を知りたかったんだ」
「なるほど」
　記者は頷きながら筆に墨をつけメモを綴る。
「私は幸運なことに猫又になれた……変化できることも相まって、人まねをして暮らしてるということさ」
　以前、生まれ変わったら人にという願いもあった。
　今の状態はそれとは違うが、悪くはないと思っている。

　カチッ。ボーン……
　柱時計が鳴った。
「この音がお気に入りでね。昔を思い出して落ち着くんだ。……ちょうど食事時だし、残り物だが食べていかないか」
　思い立った道哉は立ち上がり、記者はそれに続いた。
「お構いなく。こちらが台所ですか」
「ああ。台所は土間で釜炊きゴハン。マキは風呂や囲炉裏にくべる。味噌や干物も作るよ」
　しばらくして、道哉は食事をこしらえて皆にふるまった。
「いただきます」
　魚中心の和食は薄味で、味噌汁はぬるめだった。
「猫なもので、熱いものには弱くてね」
「とても美味しいです」
　食事を味わう記者に、同じく食事中の天狗が声をかけてきた。
「うまいだろう？　わしもここの飯は気に入ってるんだ」
「味噌汁の具は庭の家庭菜園で取れたものだよ。菜園は大げさかな、後で見てもらうがささやかなものさ」
　微笑んで会話を見守る道哉。
　記者は食事をしながら天狗や幽霊たちに話を聞くのだった。
　
　食事を下げた後、道哉は廊下の奥へ記者を案内する。
「ここが寝室兼、書斎。調べものをしながらまどろむのが気に入ってるよ。本はね、人間に興味あって勉強したんだ」
「わかります。夢中になる人間の姿を見ているのは楽しかった。自分が人の身になっても、新しい書物を作りたくなりましたから」

　頷きながら話す記者を、道哉は今度は庭へと誘った。
　井戸と小さな家庭菜園がある庭の隅には、白塗りの蔵。
「ここには集めた骨董品を並べてるのさ。金欠時に売りさばくものもあるが、思い出が詰まった大事なものもある」
　蔵の中の欠けた壺や手毬を、主は愛おしそうな目で眺めるのだった。

「よい取材ができました。ありがとうございます」
　礼を言って辞する記者を、道哉は門まで送った。
「何、こちらこそ楽しい時を過ごさせてもらったよ」

「来たか」
　後日届いた、『季刊　妖』を、道哉はわくわくしながら読み始めるのだった。

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