霊界おうち探訪！｜リアクション

霊界おうち探訪！

〇おりおり荘

「へぇーお宅訪問？　雑誌で紹介されてバァさんの下働きが増えるのなら俺は歓迎だな、そのぶん仕事減るし」
　靴の付喪神、漫歩は記者から名刺を受け取り、笑った。
　赤朽葉駅近くにある仕立屋の裏手と2階以上が、『おりおり荘』という名のアパートとして店子に提供されている。
「建物はちょっと古いけど、そういうのも味があっていいよなーと思うよ。ま、一人暮らしっていっても男だしなんも気にしてないってのもあるけど」
「一人暮らしですか。食事とかどうされてるんですか？」
　ワンルームの部屋を見まわしながら、記者は尋ねる。
　部屋の中にはいくらかの服と、歩が散歩で集めたパンフレットや拾ったものが棚に飾られていた。
　自身（靴）用のブラシやクリームなどの手入れ具も揃っている。
「大家のバァさん……いとさんがいろいろ気回してくれるから、不便そんなないよ。キノコ鍋を作っておすそ分けしてくれたりね」
「ほかにはどんな方がいらっしゃるんですか」
「裁ちばさみや、針なんかの衣服系の付喪神が集まってるよ。俺としちゃあやっぱり、嬉しいね。親近感あるから」
　二十歳ほどの青年に見える歩は、飄々とした笑顔を見せる。
「なるほど、こちらは仕立て屋さんでしたね」
「といってもほら、靴とか服なんて身に付けられてこそじゃん。みんな人間とか他のあやかしも大好きよ。だからフレンドリーなやつばっかりだし、それ以外の新入りも歓迎だね。ま、一入居者の勝手な偏見だけど～！」
「大家さんのお話も伺いたいのですが」
「ああ、そろそろ店から戻ってくるころだよ」

「おや、客かい？　それとも入居希望かね」
　人間の老婆に見える大家の逢見いとが戻ってきた。
　いとは足踏み式ミシンの付喪神だった。
「雑誌記者さんだってさ。お宅訪問の取材をしたいんだって」　
　歩が説明し、いとは名刺を受け取る。
「へえ、こんなところでいいのかい？　風呂なしトイレ共同のワンルームだ。女性はうちの風呂を使ってもらえるけど、正直不便と思うけどね」
「駅から近いのは便利ですし、皆さんとても仲良しだと聞きました。大家さんの人徳でしょうかね」
　その言葉に、いとは見極めるように記者に眼光を向けた。
「うまいことを言うね。キノコ鍋でもごちそうしようか」
「ああ……気持ちいい味だよ。……ただ忙しい人にはちょっと向かないかもね」
　そう言って歩が記者に目配せする。
　悪気あってのことではないが、いとのキノコ鍋は、食べたら三日は目が覚めないのだ。
「ありがとうございます。お気持ちだけで十分です。ところで、お店のほうも拝見していいですか」
　記者はそつなく誘いをかわし、仕立屋の仕事へと水を向けるのだった。

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