火曜日の屋上｜リアクション

火曜日の屋上

　ロベルトは秋吉をまっすぐ見つめたまま、凪をかわし、転がる下心を踏み、歩いていった。
（あいつだ……おおお、あいつだ！）
　ほとばしる同類のパッションを感じるのか、じわじわと秋吉に迫っていく。
（トモダチになれる！　あいつとは、トモダチになれる！　いや、もうトモダチだ！！）
　秋吉は反復横跳びを繰り返しながら、迫るロベルトをじっと見つめていた。
　ロベルトの赤い髪を見つめていた。
「赤い。赤いぞ……あの赤におれは……くうう～、たまんないねえ～！　体がいくつあっても足りないよね。ますます分身するしか……ないよね～」
　秋吉の反復横跳びは、さらにスピードアップ。
　その目の前まできたロベルトは、片手をそっと挙げると……
「ハイッ！　マイフレンド！」
「はいっ！」
　パチーンと気持ちよい音で、２人はハイタッチした。
　パチン、パチン、パチン……
　秋吉が反復横跳びをしてロベルトの前を通るたびに、パチンパチンパチン！
　そして、ロベルトも顔をつきあわせて反復横跳びを始めた。
　２人の膝がチッチッと擦れる音がして、焦げる臭いが漂っていた。

　まったく意味がわからない。
　変人のすることは、常識ではわからないのだ。
　しかし、わからなくともよい。
　秋吉とロベルトは、最高の笑顔だった。それは素晴らしいことだ。笑顔が一番だ！

　そんな２人の素晴らしい光景を目の当たりにしてしまったのは、常盤四月だ。
　マンガ家でもある四月は、抱えていた原稿を終わらせたところだった。
　まさに修羅場を乗り越えて、屍のようによろよろの身体で、しかしせめてもの気分転換をと屋上にやってきたのだった。
「誰……あの赤毛の男子は誰？　あのモブっぽい男子は誰……？」
　創造力を酷使した脳味噌のクールダウンにやってきたはずのこの屋上で、彼女は反復横跳びズにビンビンに刺激を受けてしまった。
「……信じられない～。かつて、こんなにもフォトジェニックな光景があったかな～、いな、ないっ！」
　スケッチブックを取り出すやいなや、凄まじいスピードでスケッチが始まった。
　２人の様子をいくら描いても、まともなマンガにはならない気もするが、そんなことはおかまいなしだ。
　何故なら四月もどこかおかしくなっているからだ。
「まぜて～。あたしもまあぜえてえ～～～」
　スケッチしながら近づくと、秋吉とロベルトは第二段階へと進化した。

　ぎゅっ。

　腕を組んだ２人は、最高にキマった笑顔で超高速スキップを始めた。
「きゃははっはは」
「あはははうふふふ」
　慌てて四月も乙女走りでついていく。
「まってえ～」
　
　ぐがっ。

　四月は下心につまづいて、転んでしまった。
　下心は朦朧とする意識の中で、目の前の四月のおしりを見た。
「お、おしりさん！」
「げげ、あたしのおしり触った人！　……も、もっと触って！」
　四月は自分の発言に驚き、慌てて口をおさえた。神魂おそるべし……！
「ファファファ……おしりを触ってほしいのだな？　もちろん今ならおっぱいもセットでお得！　たっぷり触ってあげよう」
　四月に迫ってきたのは、下心ではなかった。
　ずっと物陰に隠れていたが、彼が心配になって出てきたＰＥＣの隊員「紙袋さん」こと初島優だった。
「ファファファファ……」