夏の夜の読書会｜リアクション

夏の夜の読書会

　
◆天神平庵の場合。

　天神平庵は薬物専門のマッドサイエンティスト。最先端の研究はもちろん、漢方やハーブ、はては錬金術を始めとする雑多なオカルトまで、薬と名がつくものを耳にすれば、すべからく首を突っ込む。趣味は薬の研究と実験。
　そんな庵だから、おすすめする本はもちろん、これ。

「あたしが持ってきたのは『カンポーガールず』。漢方薬を美少女キャラに擬人化した萌え４コマまんがよ」

　眼鏡をくいっと押し上げながら、奥の席にいる人たちにも見えるように本を持ち上げる。
　見せられる範囲でページをちら見せ。

「薬効なんか、あたしも監修してるの。
　あ。今気付いたけど、自分の本は駄目ってことないよね？」
「もちろんです。きょうはいらっしゃいませんが、作家の参加者もいらっしゃいますし、サイン会や講演会を開いていただくこともあります」

　店長の言葉にうなずいて。サイン会、販促にいいかもしれない、と心にとめる。

「偶然なんだけど、このまんが、連載が始まったのが夏で、第１巻・第１話のテーマが『夏の漢方薬』なのよ。
　夏バテ、食欲不振、夏カゼ、脱水、などなど、夏によく起きやすい症状への対処法が載ってる。
　もちろん夏のエピソードだから、カラーページには水着イラストもいっぱい載ってる」

　最後は笑わせにきたのだろう、とくすくす笑いが起きる。
　庵は笑っていなかったけれど。

「今の時期にぴったりだと思うでしょ？　だから一読しても損はないよ。
　擬人化したキャラたちだから子どもにもとっつきやすいし、実際、小学生にもわかりやすく書かれてると思う。
　かといって、子ども向けのまんがだって侮るなかれ。医療知識や漢方薬についてはちゃんと監修してるからおかしなことは書いてないし、楽しく読めて役に立つまんがだから、ほんと、オススメよ。自分が関わった作品だから思い入れがあるってのはもちろんだけど、それを差っ引いてもね。
　で、それ読んで、漢方薬に興味が湧いて一度試してみたいと思ったら、ウチの天神平薬局にどうぞ」

「あ！　どっかで見たことあるお嬢さんだと思ったら！」
　店の名前を聞いて思いあたったというように、男がぱちんと手を打ち合わせた。
「商店街から１本外れた道にある、あの薬局の薬剤師さんか。へえー、こんな御本を出してたんだねえ」
「あたしが描いたんじゃない、描いたのは絵師さん」
「おねえさん、これ、今飲んでる薬と併用できるかねえ？」
「大抵の場合、西洋薬と漢方薬は併用しても問題ないけど、飲み合わせが心配なら常用してる薬持って来てくれたら相談に乗るよ」
「おねえさん、おねえさん。これってサプリと一緒に飲んでも大丈夫？」
「漢方は100％自然由来の生薬だから大丈夫。ただ、サプリの成分で同じ生薬が使われてると摂取量の問題がごくたまに出るから、一応チェックしといてね。わからないならお店に持ってきて。
　サプリ感覚で飲めるお手軽なやつもあるから、それ飲めばそっちはいらないって思えるかも」

　夜会ということで年配の参加者が多いこともあって、おすすめ本紹介の読書会というより健康相談会になっていることに店長は苦笑する。
　まあ、みんなが関心を持ってくれて、知りたいことなので、いいでしょう、と店長は思った。
　

『夏の夜の読書会　了』
　

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あとがき

担当マスター：寺岡志乃
ファンレターはマスターページから！

こんにちは。寺岡です。
当シナリオにご参加いただきましてありがとうございました。

特に何も起きない、ごく普通の日常シナリオが好きです。道１本歩くだけとか。学校から帰宅するだけとか。
今回も、皆さんの日常が見えて、書いていてすごく楽しかったです。

しばらく低速ですが、今回みたいな日常シナリオを出していけたらと思っています。
そのときは、またよろしくお願いいたします。

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