学食百景　～今年の夏も、プレミアム！～｜リアクション

学食百景　～今年の夏も、プレミアム！～

●学食を満喫

　乱蘭・フローレンスは寝子島高校を訪れていた。ちなみに彼女は寝子島高校の生徒ではないし、さらに言えば人間ではない。

「説明しよう！　拙者は幽霊である！　足はあるし触れるし、今回は常人にも見えるように努力はしたのだ！」

　影が無く、鏡に映らないという点を除けば、一般人に見える。そんな彼女の目的は学生食堂に行くことである。

「姿を晒したまま合法的に学校に侵入できる。ついでにメシを食べられる。これは『ついている』と思ったでござる。幽霊だけに」

　現世の文化に明るいイマドキの幽霊はダジャレの心得もあるのだろう。オタク気質で、普段は気ままにネタ探しをしているので、いい同人のネタが拾えるのではないかという目論見もある。

「いえね、学校って大体誰か複数が住み着いているものでやんす。トイレのピーさんとか」

　確かに学校にはそういったうわさ話がいくつも存在する。ただ多少は慎重に事を進めたい。もし『視えている』生者がいて、強制除霊されてはたまったものではない。

「いえ、霊界に追い返されるだけですかね？」

　色々考えた末、楽観的な結論に落ち着いた。もしものことは、もしもの時に考えることにして、今は学食へ向かう。
　学食では利用客のさらなる普及のため、学食では呼び込みのアルバイトを募集していた。乱蘭は入っていいかと問いかけ、その返事をもらったうえで敷地内に入る。入る前に一言尋ねるのがあやかしマナーらしい。

「さあお仕事はちゃんとやるでござるよ」

　やる気満々の乱蘭。そんな彼女に学食スタッフが仕事着を渡してきた。

「これに着替えればいいのですな。ではさっそく着替……寅柄ビキニ！」

　まさかのチョイスに思わずツッコミを入れてしまった。しかし乱蘭はタフだった。

「これを校内で！？　えっち！　角はありますか？　では２本でお願いします。それから髪型はロングにしてー」

　学食スタッフの用意したコスチュームに、さらに要望を追加していく。

（知ってますけど寝子高、ハジケてますねー）

　そのハジケたノリに乗っかる乱蘭もなかなかの強者だ。乱蘭はさっそくメニュー看板を持って校内を歩く。

「学食ー学食だよー！　今なら夏季限定プレミア厶かき氷パフェが販売中でござるよ」

　乱蘭は元気に呼び込みをする。
　その活気ももちろんあるが、やはり彼女の格好は人の目を引く。寅柄ビキニに角をつけて学校の敷地を歩いていれば、目立たないはずがない。しかし乱蘭はむしろ視線を好意的に捉えていた。

「セクシーお姉さんが気になるのはよくわかります。だっちゅーの」

　かなりきわどいことをしているが、なぜか咎めるめられる様子はない。神魂の影響で、なんとなく黙認されているのかもしれない。しかし『視える』人には気づかれる恐れもある。

（あ、幽霊見える方は見逃したってくんさい。合法です無害です、ハイ）

　そんな心配をちょっとしつつも、何事もなくアルバイトを終えた。

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