学食百景　～今年の夏も、プレミアム！～｜リアクション

学食百景　～今年の夏も、プレミアム！～

●学食の楽しみ方

　その日、春名あきらは学食の呼び込みをやっていた。いま学食では夏季限定メニューを展開していて、その宣伝のためにアルバイトを募集している。
　それだけならよくあることなのだが、今回は話題作りのために何らかのコスチュームを着用することになっている。そして、あきらは自慢のナイスバディを活かしたセクシー白バニーの姿を選んだ。
　
「あつーい夏やでー！　暑い夏といえば？　そう、冷たいかき氷と涼しげバニーさんや！」

　学食の近くを通りかかった人たちにとにかく声を掛ける。こういう催しは『興味はあるが、一歩踏み出せない人』というのが一定数存在する。そんな人を見かけては近づいてアピールをする。

「キミ、プレミアムかき氷パフェはどない？　ウチのおススメはみぞれシロップにオレンジとチョコのソフトクリームとチョコレートのトッピング。箸休めはチョコチップクッキーや！　どう？　どう？　気になってきたやろー？」

　端的で、それでいて的確な説明は一方的な押し付けにならず、聞き手に話に対する余裕を持たせる。日差しの強さは他の人も感じているので、かき氷という響きは大変魅力的なのもある。

「今なら雪うさぎあきらちゃんが食べさせたるでー？　『はいあーんして♪』っちゅーやつ！」

　そう言いながら手を相手の口元に伸ばすような動きを見せる。それをされた人は戸惑うこともあるが、もしかすると、あきらの格好に慌てふためいているかもしれない。
　そうこうしているうちに、そこそこ学食にも人が集まって来た。呼び込みの甲斐があったかもしれない。あきらは今度は学食内の様子を見に行く。するとかき氷パフェで体が冷えすぎた人を見かけた。

「大盛すぎて寒なってきた？　そしたらうちが暖めたげよー。　ほーら、ぎゅー♪」

　相手に抱き着くと、ろっこん『限定あたたか』で暖かく感じる程度の熱を放出する。相手は突然抱き着かれた事にも暖かくなることにも驚いているようだが、あきらは特に気にしていない。そしてふと、彼女は思いついたことを口にした。

「ついでに体が温まる食べ物もご用意や。うちも大好きなこれ、一口あげるからはいあーんして……え？　これ何って？　プレミアム激辛寝子島丼に決まっとるやん？　辛さ100倍で元気も100倍、口から火ぃ吹くくらいのパワーやでー！」

　なお１００倍は注文できるなかで最高の辛さである。体が温まるのを通り越して熱くなりそうな一品を相手の口にそっと入れる。そんな感じで食べさせたり、自分も食べて楽しむ。

「他のお料理のアピールしてもええねぇ。クリームやフルーツをこのバニー服に乗せたらクレープになりきれるやろか？」

　なんてことを思いながら学食での時間は過ぎていった。