学食百景　～今年の夏も、プレミアム！～｜リアクション

学食百景　～今年の夏も、プレミアム！～

●アルバイトの報酬

　その日、楠瑠璃はいつも通り学食で昼食を食べていた。
　しかし、いつもと変わらない光景のなかで、小さな違和感を覚えて手を止める。

（なんとなくいつもより人が多いような……？）

　お昼時なので学食に人が集まるのは自然なことだけれど、少し疑問に思った。

（ま、そんなに気にすることでもないか）

　そう思って再び箸を動かす。そして食べ終えると満腹感で幸せな気持ちになった。その気持ちを抱えたまま学食を立ち去ろうとしたとき、突然声を掛けられた。学食スタッフだと名乗る人物の話を聞くと呼び込みをやってほしいという。
　いま学食では夏季限定メニューを展開していて、そのアピールをするアルバイトを募集中とのこと。

（ああ、だから普段より人がいたのね）

　先ほどの違和感の正体がわかり、なるほどと思った。そして気になるアルバイトの報酬は食券。これは夏の期間中はどのメニューも食べ放題という、プレミアムな食券だ。

「それなら是非やらせてもらうわ」

　瑠璃は了承すると、学食スタッフに案内されて準備を始める。話題作りのため、コスチュームを着用して呼び込みをするらしい。

（メイド服みたいなもの？）

　そんな想像をしていると、さっそくコスチュームを渡される。

（これを着てほしいのね……って、水着！？　しかもほとんど全裸じゃない！）

　メイド服という予想をはるか斜め上に突き抜けるものだった。思わず困惑する瑠璃。

（まあ、やるって言ったからには着るしかないわね）

　しぶしぶといった様子で着替えを終えると、学食の外に向かった。

「学食で特別メニューやってまーす……どうですかー……」

　仕事を任された以上、やることをやらねばとは思うが、自分の格好がどうしても気になる。

（うう……いやらしい目で見られてる……しかも胸のことばかり言われてるし……）

　さらに写真まで撮られそうになったので流石に止めに入った。そんなことが度々起こったが、どうにか呼び込みを続けてアルバイトを終えた。

（ふう、体力面では問題なかったけど恥ずかしかったわ）

　水着を脱いで元の服に着替えると気持ちが少しずつ落ち着いてくる。そしてその手にはアルバイトの報酬として受け取った食券がある。

（けどこれがもらえたのはよかったわ）

　瑠璃は満足そうに学食を後にした。

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