霊界忘れ物市｜リアクション

霊界忘れ物市

　ポニーテールの初瀬川理緒と、セミロングヘアの佐和崎紗月は、大学の帰りにシーサイドタウンの駅ビルmiaoに立ち寄った。
「紗月、忘れ物市だって。何か面白そうなものがあるかも？」
「そうだね。ちょっと寄ってみようか」
　二人は一緒に忘れ物市を覗いてみることにした。
「傘がいっぱい！　忘れ物の定番だね」
「こっちは洋服や水筒、バッグにキーホルダー、老眼鏡、食器類に化粧品なんかもあるね……」
　二人は珍しそうに忘れ物を見て歩く。
「品物自体は珍しくないけど、持ち主はどんな状況で電車に持ち込んで忘れたんだろ、って考えちゃうね」
「気づいたとき焦ったろうね。でも問い合わせとかしなかったのかな？」
「どこで忘れたのか思い出せなかったり、遠くから来ていて戻る気がしなかったのかもね」
「あ、スマホの充電器がある！　それに……」
　帽子に和服というコスプレみたいな服装の青年がワイヤレスイヤフォンを見ていた。
「わからんものが多いが人の世は流行り廃りが早いな。箸置きか、あくせさりーか？」
　そんなつぶやきに二人は顔を見合わせた。
（教えてあげたほうがいいのかな？　でも知らない人に声はかけられない……）
　と紗月がためらうのと同時に、理緒は声を上げている。
「ワイヤレスイヤフォン！　この前なくしたばかりだし、お手頃価格だから助かった！　買っちゃおう」
　ワイヤレスイヤフォンを手に取る理緒の言葉に、青年はぽん、と手を打った。
「わいやれすいやほん……いやほんは聞いたことがあるぞ、耳に突っ込むものだ」
　その様子を見て何かほっとしながら、二人は次のコーナーへ向かうのだった。

「私はこのトートバッグを買おうかな」
　充電器とワイヤレスイヤフォンをかごに入れた理緒に、紗月はそうつぶやく。
（他には……あ、このアクセサリー可愛いかも）
「ネックレス？　いいね、撮影の時にも使えそうだね」　
　紗月が手にした貝のネックレスを見て、理緒は笑顔で勧めた。
「理緒ちゃんがそう言うなら買おうかな」
「うん。あ、腕時計がある」
　青いベルトのデザインが気に入り、理緒は近くにあった腕時計を手に取った。
「理緒ちゃんに似合いそう」
「紗月がそう言うんなら買っちゃおう」
　二人はお互いの顔を見て笑いあう。

　さらに二人は色々なものを見て回る。
「あ、ベビーカー！　なんでこんなものが？」
　理緒が指さし、紗月も首を傾げる。
「何故ベビーカーなんて忘れるのかな……」
　わけがわからず困惑する紗月に、理緒は言った。
「赤ちゃんを忘れるよりはましだけど」
「それはそうね……」
　そばにはヘルメットとか、招き猫の置物まであった。
「ヘルメットはまあわかるかな。脱いで置き忘れた……」
「待って、どうしてヘルメットをかぶって電車に乗るの？」
「……それもそうか。工事現場に行く途中だったとか？」
「うーん、車で行きそうだけど、そんなこともあるのかな……」
　未開封のゲーム機やら同人誌の束とかもあった。
「よくこんなものを忘れたりするもんだね……」
　と、なんだか感心してしまう紗月だった。

「さすがに他に欲しいものはないかな……」
　適当に商品を置いてあるワゴンを見て回っていた二人だが。
「あ、ＤＶＤやBlu-rayのソフトがあるね」
「ほんとだ。面白そうなのがあれば何枚か買っていこうかな……」
　それらが並ぶ一角に近づき、二人は適当にタイトルを眺めていたが。
「あーっ！」
　突然理緒が声を上げた。
「ど、どうしたの？」
　驚いた紗月が声をかけると、理緒はBlu-rayを手に取りパッケージを見せた。
「じゃじゃーん」
　それは、どこか南の島の陽光の下。
　カラフルなビキニを身につけてキラキラした笑顔を浮かべているのは……
「ええ？　理緒ちゃん？！」
「驚いた。これってグラドルデビューした夏休みにタヒチで撮影した最初のBlu-rayソフトだよ。思わぬところで初々しい自分と再会できたわ」
　確かに今より少し若く見える。デビューといえば、高校１年生のときのはずだ。
「せっかくだからこれも買っちゃえ」
　はしゃぐ理緒とは対照的に、紗月はちょっと恥ずかしそうな表情になった。
「……どうかした？」
「えーと……こういうの、恥ずかしくない？」
「なんで？　何年グラドルやってると思ってるの？」　
　あっけらかんと笑う理緒の笑顔が眩しい。
（私が考えすぎなのかな……）
　少し迷う紗月。
（このまま他の人に見られたり買われたりするよりは、買っていったほうがよっぽどどいいよね……）
「恥ずかしいなら紗月には見せないよ」
「……えっ、それはイヤ……」
　困る紗月を、理緒は楽しそうに見つめるのだった。

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霊界忘れ物市

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