霊界忘れ物市｜リアクション

霊界忘れ物市

　木天蓼大学院生のマリエッタ・ラシュリエは、ちょっとした用事でmiaoへ足を向けた。
「……あら？」
　駅ビルの中へ足を踏み入れると、どことなく違和感を感じる。
（……ここはmiaoじゃない？）
　どこがどう、とはうまく言えないのだが。
　どことなくおかしい感じがして、原因を探るべく周囲を観察した。
『忘れ物市』と書かれた幟が部屋を覗くと、床や壁が、見覚えのあるmiaoの屋内とは違い古めかしくなっている。
「いらっしゃいませ」
　着物姿でお辞儀をした店員らしい人の雰囲気が、どうも現代的ではない。
　現代どころか、まるで現実ではないかのような……
「……あの、ここって……何か変ではありませんか？」
　おかしいと思われるかもしれないが、思い切ってマリエッタは店員に尋ねてみた。
「ご安心ください。こちらは霊界の忘れ物市でございます」
「えっ？」
「品物は吟味しておりますので、危険なものはございません」
「……そ、そうなの」
　霊界……最近噂には聞いている。
（まるで怪談みたいだけど、あんまり怖い感じもしないので少し拍子抜けね）
　考えてみれば寝子島では、前から怪談めいたことなど珍しくはなかった、と思い至る。
（霊界ではどんなものを取り扱っているのかな………）
　興味を覚えて、見て回ることにした。

（霊界の品……っていう割には、意外に普通っぽいものが多いわね）
　少しレトロな感じの南部鉄器風の急須とか、硝子の切子細工のタンブラー。
　値段も手ごろでデザインも気に入ったので、いろいろと買い物籠に入れてみた。
（でもこれはあんまり霊界って感じがしないかも……？）
　と思っていたら、まるで心の声が聞こえたかのように店員らしき人が近づいてきた。
「おすすめのものがありますよ」
　とにこやかに言う。
　マリエッタは少し考えた後、
「……何ですか？」
　と、店員の案内するほうへ向かった。

　そこには、ひものついた小さな工芸品が並んでいた。
「……これは？」
「根付でございます。和服の留め具として使われるものですが、現在は蒐集品とされています」
　説明してくれた店員が、その中の一つを指した。
　マリエッタは、その猫の形をした根付を手にしてみた。
　すると……
「にゃあ」
「えっ？」
　その鳴き声が、手の中の根付から発せられたのだとは信じられず、マリエッタは周囲を見回した後、まじまじとそれを見つめた。
「おや、あなたが気に入ったようですね」
　店員にそう言われても半信半疑な気持ちもあったが、その猫は確かに可愛らしかった。

　結局、思わぬ品物をゲットすることとなった。
「……まあ、こんなこともあるよね」
　寝子島通いも長いマリエッタは納得してしまうのだった。

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