霊界忘れ物市｜リアクション

霊界忘れ物市

「ほほう。忘れ物市か……話には聞いたことがあったが訪れるのは初めてだ」
　少し前、シーサイドタウン駅前で、あやかしの三毛谷道哉は忘れ物市の幟を興味深そうに眺めていた。
「古今東西の逸品あるとは心が躍るな」
　観察眼を養うにもよいだろうし散策に丁度いい、と会場を訪れた。
（人も物も、よい出会いがありそうじゃないか）
　広い会場に人はあまり多くなく、近くには若い女性がちらほらといるくらいだったが、ゆっくり見て回るにはちょうどいい。

「わからんものが多いが人の世は流行り廃りが早いな」
　白くて丸いものが二つずつ並んでいるのを見て、道哉は首を傾げた。
「箸置きか、あくせさりーか？」
　その声が聞こえたらしい若い女性の二人連れがこちらを眺めている。
「ワイヤレスイヤフォン！」
　一人が声を上げるのを聞いて、道哉は丸いものの正体を理解し、ぽん、と手を打った。
「わいやれすいやほん……いやほんは聞いたことがあるぞ、耳に突っ込むものだ」　
　女性たちに感謝しつつつぶやいた。
「教えてもらえて助かった。お互いよい物に出会えるとよいな」

　さらに隣の品物へと目をやる。
「おお、これは分かるぞげーむ機だ。巷の坊やが持っていた。乾電池が入りそうもない薄さだが……ふうむ」
　ゲーム機の中に気になるものを見つけて、道哉は思わず手に取った。
「魚の形をしているな」
　サンマの開き風に口のところが尖り気味の、折りたたみできるデザインの携帯ゲーム機だった。
「気になるが購入はどうするか、誰かに教えを請わぬと使いこなせそうにないな」　
　手に取ったそれを開いてみて、また閉じて戻す。
　次のコーナーを見て、道哉の顔に笑みが浮かんだ。
「この辺は馴染み深いな」
　けん玉やコマといったおもちゃが並んでいる。
「けん玉にコマ回しはよくじゃれたものだ」
　それは猫だった頃の思い出だ。
　道哉は子供たちの笑顔を思い起こしながら歩を進める。

「おや？」
　何か様子が変わったことに気づき、道哉は周囲を見回した。
「いらっしゃいませ」
　さっきまでいなかった着物姿の店員が声をかけてきた。
　どうもあやかしの気配がする。
「おっと、霊界に入ったか」
　床や壁もさっきと変わって古めかしくなっている。
「道理で……霊界とも繋がってるとは面白い」
　道哉は懐かしさに頬を緩める。
「この籠はくたびれて収まりが良さそうだな」
　古びた覗き込み、道哉はつぶやく。
　猫になって籠に入ることを想定しているのだ。

「ここは衣服とあくせさり関係か」
　いつでも綺麗な着物を着た青年に変化できる道哉は、服は買わずとも事足りるのだが。
（実物があってこそ得るものもあるし『本物』には敵わないしな）
　猫のとき自らの体を覆っている毛皮を思う。
　もちろん毛皮に愛着はあるが、人の体はいろんな服やアクセサリーを楽しめるから面白い。
「和傘と扇子がみたいな。和服もよいのがあったら眺めていくか」
　店員が近づいてきて言った。
「こちらの組み紐などいかがですか」
「組み紐……？　ああ羽織につける。忘れていたな。そういえば覚えがある」
　人間たちが羽織につけていたのを思い出す。
　最近着物を着る人間を見かけないのは承知しているが、道哉は締め付けずひらひらしてお洒落な着物が気に入っている。
「お洒落に一役買えそうだな」
「こちらは、このように磁石になっております」　
「ふんふん今は磁石で留めれるのもあるのか。それにこの長さ……ちょうどいい」
　いろいろと吟味し、黄色い石の組み紐とマグネットタイプの天然石を購入した。

　店を出た道哉は、天然石をつけた組み紐を輪っかにして置いた。
「和服にはこういうものが合うな。それに……」
　言いながら、変化を解除し猫になる。
（首輪にもぴったりだ。着脱もしやすい）
　そのまま首輪に頭を通し、着け心地に満足する。
（ふふ、今後楽しみが増えそうだ）

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