７月の前奏曲｜リアクション

７月の前奏曲

☆ある日の道場・２

　練習する気満々で走ってきた金髪の鹿園斐美は、古武術道場に着いて違和感を感じました。
（いつも聞こえる掛け声も足音も、何もしいひんのよな……？）
「まさか休みだったのを忘れてたとか？　いや、聞いとらんはずや」
　玄関が開いているのにほっとし、靴もあるのを確認して、着替えることにします。
（それにしても静かやな。中に人はおるようやけど？）
　とりあえず練習着のジャージ生地の作務衣に着替えて出てきて、
「誰もいてない……？」
　不安になった瞬間。
「わっ！！」
　後ろに隠れていた獅百合は、大声で叫んで斐美を脅かしました。
「うわ゛っ、びっくりしたぁ……。よーそのでっかい体と足で音もせんと……に゛ゃ！」
　まんまと獅百合の脅かしにひっかかった斐美は、有無を言わさず圧し掛かってこられて、手足をバタバタさせました。
「あっはは、良い反応！　だけど大きさのこと言ったからお仕置きねっ」
　のしぃっと圧し掛かって、ネタばらしします。
（あー、大きいのけっこう気にしとるんやなー）
　そう思いながらなんとか獅百合のお仕置きから逃れます。
「今日は師範代、クロやんの一声でお休みだよ。メッセージ見ずに来ちゃった子だけで菓子パの準備中！」
　話を聞かされた斐美は、スマホを確認してメッセージを読み、道場に足を踏み入れて状況を把握しました。

「ビビちゃんもようこそっ」
　志桜里は道場でごろごろしながら声をかけます。
　傍らでは憮然とした表情の昴が、うちわで志桜里を扇いでいました。
「音戻してなかったから気いつかんかったわ。うーん、菓子パはめっちゃやりたいねんけど、体動かされへんとなんや不完全燃焼やな……」
　複雑な斐美の表情は、しかしすぐに明るくなりました。
「せや！　シロやんちょっとだけ付き合わへん？」
　穏やかな口調と裏腹に気性が荒い獅百合。
（シロやんの気まぐれさなら……）
　いける、と思った斐美ですが。
「つきあわなーい。どうしてもやるんなら、今日は縮めちゃうよ」
「いや付き合わんのかい」
「床に落ちてるクロの代わりは忙しいのだっ」
（あかん、ほんまに姉妹揃ってにやる気ない日やん今日。うーん、練習でけへんのは残念やけど……まぁええ、切り替えよ♪）
　斐美は、今日は無理そうだと諦めます。
「ほなしゃーないな、うちも大人しくご馳走されまっさ♪」
「ん、素直でよろしい♪」