７月の前奏曲｜リアクション

７月の前奏曲

☆七夕飾り

　１年の月原想花は、夏休みが間近になっても全然心浮き立つ気がしないし楽しくありませんでした。
「中間テストの追試で散々な目に遭い、犬小屋補習の地獄を見て、さらに夏休みには大量の宿題が出されること確定……」
　犬小屋補習を命じたフジコ先生のドSな顔が浮かび、想花はため息をつきました。
「いや、それ以前に今度の期末で赤点出したらどうしよう……？　そうなるとまた地獄の犬小屋補習が待っている……しかもこのクソ暑い夏の日に！」
（決めた。今日から試験勉強に取り掛かろう）
　そう思って放課後、図書室へ向かう途中。

「あっ、想花ちゃん！　元気～？」
　先輩の野々ののこに遭遇しました。
「ねえねえ、今七夕飾り作りにハマっているんだけど、一緒に作ろうよ！」
「え……？　ぼく今日は七夕どころじゃないし」
　断ろうとした想花ですが。
「そう言わずに、ちょっとだけつきあってよー♪」
　笑顔のののこに強引に押し切られる格好で、教室に引っ張り込まれてしまいました。
「なんでこうぼくは弱いんだろ……」
「七夕飾りを作ればきっと願いが叶うよ！」
　ののこの言葉に、
（小学生じゃないんだから……あれ？　でも、ののこ先輩が言うと、なんか叶いそうな気もしてきた）

　なんだかんだで、やれやれと思いつつ席に着いた想花は、観念して飾りを作ることにしました。
「まずは網飾りを作るよー」
　用意された色紙を適当に取り、ののこのやるのをまねて切っていきます。
「ぼくはこういう手先を使う細かい作業が苦手だったんだけど」
「えっ？　うまいじゃない」
　ののこにほめられると悪い気はしません。
　それから輪飾りに菱飾り吹き流しと言ったものを作っていきます。
「猫鳴館で鍛えられるうちに克服せざるを得なかったというか……」
　薄暗い灯りの下、なりゆきで先輩たちにカンニング用鉛筆を作らされたりしたことが思い出されます。
「すごいね、猫鳴館！」　
　そんな話をしながら作業しているうちに、想花は勉強のことも忘れて飾り作りに夢中になっていました。
　折り鶴や、本を見ながら織姫と彦星の紙人形に、星やスイカなど。
　机の上はいつしか、ののこと想花の作品でいっぱいになっていました。
　想花の頭の中の天の川で、紙人形の織姫と彦星は人の姿になり、１年ぶりの再会を喜びあって抱擁するのでした。

「想花ちゃん、次はこれ作って！」
　そう言われてののこに示されたページを見て、しかし想花は頭を抱えました。
「くす玉？　さすがに無理！　ぼくは別に器用なわけじゃないんだからね！」
「えー、できると思うのになあ」

「楽しかったー、つきあってくれてありがとう♪」
　気が付けば下校時間が近づいており、ののこはたいそう嬉しそうに想花に礼を言いました。
　想花は勉強を諦め、ののこと共に七夕飾りを手に学校を出るのでした。
（神様、今度の期末だけは赤点を取らずに済みますように）
　心の中、星に願いをかける想花でした。