７月の前奏曲｜リアクション

７月の前奏曲

☆放課後の図書室

　放課後、八神修は、七夜あおいと共に図書室で勉強していました。
　自他ともに認める勉強好きな修ですが、あおいと過ごす勉強の時間は特別なものです。
　ふと顔を上げてあおいと目が合ったりすると、なんともいえずほっこりと気持ちが温かくなるのでした。
「修くん、勉強のコツってある？」
　何度も一緒に勉強しているあおいの問いに、修は微笑んで答えます。
「継続かなぁ。馬人参も使うよ」
「馬人参？」
　きょとんとしたあおいの表情が、ああ、と腑に落ちたものに変わります。
「ああ、問題集此処までできたら自分にご褒美、とかだね」
「ご褒美って、どんな？」
「ああ……猫と遊ぶとか……」
　ちょっと照れながら答える修に。
「可愛い」
　とあおいは微笑みを見せました。
　その笑顔に、修は心の中でガッツポーズを作るのでした。

　明日も平日なので切りがいいところで終わり、図書室を後にした帰り道。
「修君と勉強してるときはいいんだけど、やっぱり受験って不安だなあ」
　あおいがそんな不安を零しました。
「あおいは頑張ってるし、大丈夫だよ」
　修は勇気付けますが、あおいはまだ不安が消えないようで、
「本当に？」
　と見つめてきました。
　その瞳に少したじろぎながら、修はあおいを優しく見つめ返します。
「あおいには嘘を吐かないって、知ってるだろ？」
「そうだね……」
（どうすればあおいは納得してくれるだろう）　
　受験に絶対がないことは承知の上で、それでも修はあおいに安心してほしかったのです。
「俺も完璧な自信があるわけじゃない」
　考えた末、結局修は自分の不安をチラリと覗かせたのでした。
「修君でも……不安なんだ」
　あおいは、はっとした表情になり、それから笑顔を見せました。
「それじゃ私が不安になるのも仕方ないね」
「ああ。一緒に頑張ろう」
　そう言いながら微笑み返し、修は続けました。
「先は長いからリフレッシュも要るよね。海行きたいなあ。あおいは何か夏の計画してる？」
「海、いいね。私は……そうだ、家庭科同好会で手作りアクセを作ろうって計画があるの」
「手作りアクセも良いね」
　夏の帰り道は日が長くて、あおいの表情がよく見えて嬉しい季節でした。

「志望校の見学も有りかな。ついでにスイーツを食べるんだ」
　修の言葉に、あおいが突っ込みます。
「どっちがついで？」
「周辺環境の調査だよ、調査」
　キリッ、と眼鏡を上げるようなポーズを取る修に、あおいがたまらず吹き出し、続いて修も我慢できず吹き出すのでした。

　残念なことに、あおいが住む桜花寮はとても近くて。
　寮の入り口まで送ってもあっと言う間なのでした。
「また明日」
　修が言いました。
「うん。修君、いつも必ず言うね」
　あおいの言葉に、修は答えます。
「そうだね。そういう当り前の幸せを大事にしたいんだ……」
　それは小さくても大切な約束。
　修はあおいの気持ちを包むように、優しい笑顔を見せるのでした。

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