７月の前奏曲｜リアクション

７月の前奏曲

☆昼休みのバスケ部員

　あと２週間ほどで夏休みという７月のある日。
　寝子高女子バスケ部の部長、羽生碧南は、教室で物思いにふけっていました。
（夏休みはいいけどその前に期末テストが待ち構えているし、７月は七夕ゆかたまつりに海開きに水泳大会に終業式に、いろいろとイベント目白押し……）
　そして碧南は気づきました。
（……もっとも、これも今年で最後なんだ）
　寝子高に入学して、これでもかというぐらい考えられないようなことがとにかくいろいろありましたけど、碧南はもう１７歳の３年生。
　今身に纏っている寝子高の夏服だって、秋になればもう二度と着ることもなくなるわけで。
　そう思うとなんだか少し寂しくて、柄にもなくちょっとばかり感傷的になっていたところに。

「先輩、遠い目をしちゃってまたゲームのこと考えてるんですか？」
　バスケ部の後輩、２年の浅見柚乃に声をかけられました。
「えっ、違うわよ……」
　確かに、乙女ゲーム好きの碧南の妄想はいつものことなのですが。
　否定したところに、同じくバスケ部の１年、霧生愛もやってきました。
「こんにちは、先輩方。碧南先輩の目はゲームのこと考えてるとハートになってますから、今日は違いますよ」
「……それって私の目が節穴だってこと？」
　柚乃が愛をにらみ、愛は受けて立つように挑発します。
「あら、自覚があるんですか？」
「まあまあ……食堂、行くんでしょ？」　
　この二人、事あるごとに火花を散らすので、碧南ははらはらしながら仲裁に入るのですが。
　互いに競争心を持っているので、結果的にここ最近、目覚ましく成長しているのも確かです。
（寝子高女子バスケ部の将来を担う存在になるのは間違いないんだから。もうちょっと仲良くしてくれるといいんだけど）
　食堂へ向かいながら、碧南は話しかけます。
「そういえば今度の……」
　碧南の頭にあったのは、来月中旬に迫ったインターハイでした。
　出場権を獲得した女子バスケ部は練習に余念がなく、そのことを話題にしようと思ったのですが。
「あっ、七夕ゆかたまつりのことですか？」
「あ、私も聞きたいと思ってました。先輩方、どんな浴衣着ていくんですか？」
　珍しく柚乃と愛の意見が合い、碧南としても気になる話題だったのでそれに乗っかることにしました。
「私は赤い椿の花の柄のゆかたがあるんで、それを着るつもり」
　碧南の答えに、柚乃と愛の表情が輝きます。
「いいですね、似合いそう」
「聞いてるだけで目に浮かびます」
　和やかな会話をしながら三人は学食に着きましたが。
「……あれ？」　
　なにやら、いつもと違う空気が漂っていました。
「空気というか、この匂い……納豆？」

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