素材を求めて｜リアクション

素材を求めて

　楡宮遠海は薄暗いところを探して回る。視界の悪い路地裏を見つけると怯えることなく足を踏み入れた。
「見つからないわ」
　舗装された道に亀裂が入り、燃えるような色の草が生えていた。探し求めている赤紫とはかなり異なる。
「あれかも」
　小走りで向かう。生えている草を上から見ると葉は赤紫で合っている。ただし葉の先端に赤くて小さい鈴のような花が咲いていた。
「微妙だけど、違うのかも」
　通り過ぎたあとも未練がましく振り返る。どうしても諦めきれないのか。来た道を戻る。
　その時、後ろから呑気な声が聞こえてきた。
「赤紫の草を見つけたのですー。あとはのんびりゲームセンターで遊んでいくのですー。プリクラも撮るのですー」
　ゼロ・シーアールシーはくるりと背を向けた。ふわふわのスカートを弾ませて歩いていった。
「私が戻らなかったら……」
　沈む声と共に背中が丸くなる。が、急に復活を果たす。
「キノコ鍋を食べるまでは！」
　拳を握った遠海は走り出す。路地裏から路地裏に突っ込み、躍起になって赤紫の草を探した。
「見つけたわ！」
　店舗の裏側に置かれたバケツの横に生えていた。毟り取って高々と掲げる。
「キノコ鍋よ！」
　遠海は速足で道を引き返した。左右の道では立ち止まり、右手に進んだ。三叉路でも考えて真ん中の道を選ぶ。
　店舗の前で立ち止まる。仕立屋ではなかった。魔改造屋の怪しい看板が掲げられていた。
「……迷子になってしまった」
　震える声で言った。
「諦めない」
　強い決意を滲ませて走る。適当に道を曲がった。頬を汗の筋が流れる。喘ぐような口を閉じ、歯を食い縛って走り回った。
「やっと、見つけた……」
　遠海は仕立屋を前に疲れ切った顔で笑った。

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