【プール開き】六月快晴初およぎ日和｜リアクション

【プール開き】六月快晴初およぎ日和

●ここはどこ、あやかしプール！？（４）

　３年４組宮祀智瑜は学校指定のスクール水着でプール開きに臨んでいた。
　地上ではよく転んだり、ドジなところもある智瑜だが、泳ぎは得意だ。
　担任で、１年生のころから想いを寄せている桐島義弘先生に良いところを見せたいと張り切っている。

「義弘先生、しっかり見てて下さいね！」

　身体を隠していたバスタオルをはぎ取ると『ちゆ』と書かれた名札を押し上げる形の良い胸のかたちが露わになる。先生に見られるのは少し恥ずかしいが、他の女生徒にくらべれば全然大人しい水着のはずだ。普段の水泳授業だってこの格好で受けているのだから、と準備体操をしてプールに飛び込もうとした刹那、何か変だと気が付いた。
「ん？　河童？　あやかし？」
　水面をすうーっと頭のお皿が移動していく。それだけではなく、プールサイドで水着が脱げてしまっている人、プールの中で身悶えしている人など、あやかしの餌食になっている人があちらこちらにいるではないか。
「えっちなあやかしだらけですっ。これはピンチ！？」
　ピンチである。
　ひとである義弘先生ですらも異変が起こっていることに気付き、
「宮祀！」
　と手を差し伸べてくるが、ここで智瑜はうっかり自分を追い込む選択してしまった。
　――でもいいところ見せるって決めたから頑張らなくちゃ。
　その途端、見えない手に足を掴まれ、プールの中に引き吊り込まれた。
「きゃっ」
　水の中でお尻を撫でられそうになり、身体を捻って何とか躱す。
　すると見えない手は、智瑜の胸にターゲットを定め、スク水の肩紐を下げにかかってきた。
「水着を脱がせるのもダメです！　出ちゃいます」
　水の中で、色情霊の見えない手に抵抗して胸元を抑える智瑜。しかし周りからは、ひとりで水着を脱ぎ始めたかのようにも見えていた。普段は真面目な切れ者で通っている義弘先生の視線が、揺れながらも智瑜の胸元に釘付けになっている。
「み、宮祀……」
「ち、違うんです。今は見ちゃダメです！」
　先生の視線を遮るように、智瑜は思わず胸を抑えていた両手を先生の方へ向けてしまった。
　その瞬間を狙ったかのように、今度は下から脱がされそうになる。
「わぁ、本当に出ちゃう！　ダメですってば！」
　智瑜はがむしゃらにあたりを蹴った。当たった感触はない。もう近くにはいないのだろうか。
　相手が見えないからどこから何をされるのか分からず、防ぐのが難しいことを実感する。
「これじゃ泳げないですよ」
　こんなはずじゃなかった。義弘先生に良いところを見せるはずだったのに。
　しかし逃げるなら今だ。ざぶんと潜ると智瑜は潜水で泳ぎだした。

　ところが、である。
（あれ？　何か違和感が……）
　泳いでいる途中で水着を後方に引っ張られる感じがして水中で振り返った。
　たしかに違和感がある。微妙な水の揺らぎ。肌で感じる水の感触。
　しばらく目を凝らしていたが息が続かず、水面を目指す。
　水から顔を出して息を吸う。そのまま立ち上がろうとして――、
「きゃー！！」
　悲鳴をあげた。
　知らぬ間に水着が半分以上脱げていて、胸がぽろりと出てしまっていたのだ。
　慌てて両手で隠してみるけれど、智瑜のサイズだと手だけでは隠しきれない。
「義弘先生、助けてくださいっ」
　涙目で助けを呼ぶと、義弘先生がプールに飛び込んで助けに来てくれた。
「大丈夫か？」
「は、はい……」
　守られるように肩を抱かれてプールサイドまで引き上げられる。
（なんとか逃げ切れたみたい？　まさかえっちなあやかしが出るなんて聞いてないですよ）
　しばらくはあやかしに対しての怒りで頭がいっぱいだったが、我に返って、肩を抱き続けてくれている義弘先生を斜めに見上げる。
「義弘先生、見ました？」
　――義弘先生になら、いい。
　甘酸っぱい感情が智瑜の中を駆け抜ける。
　先生は、二、三秒言葉に詰まったのち、はやく水着を着直しなさい、と言った。
「私は、その……眼鏡がないと良く見えないから」
　見ていない、と真っ赤になってアピールする義弘先生の言うことを聞いて、智瑜は肩紐を掛けなおし、豊かな胸を水着の中にしまい込む。
「ありがとうございます。今度こそ義弘先生に良いところを見せたいです。見ててもらえますか？」
　また同じことが起こっては堪らないと焦りまくった義弘先生に、今日はもう泳ぐな、と止められたのは言うまでもない。

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