霊界の猫たちの集い｜リアクション

霊界の猫たちの集い

●いつもと違う、猫たちの集い

　恵御納夏朝はいつのまにか知らない景色の中に居た。

（雑貨屋でネコグッズを眺めていたはずなんだけど）

　買い物タイムが唐突に終了し、思わずため息を吐いた。
　こういう経験は初めてではないので、とりあえず周囲を歩いてみる。すると屋敷が見えてきた。日本家屋の装いで、建物はかなり大きい。それに広い庭も広がっていて、池もある。そしてそこに猫たちが集まっているのが見えた。

（猫さん達……可愛い……！）

　そのなかにはあやかしの猫も多数含まれていた。彼女は霊界にまつわる『ある噂』を思い出す。それは霊界のどこかに猫が定期的に集まる場所があるというものだ。しかし霊界に対して恐怖や怯えはなく、それよりも猫たちの姿に目を輝かせている。

（これはまたとないチャンス……！）

　夏朝は屋敷を少し探検した後、色んな猫たちに混ざってのんびりする。まとめ役と思われるトラジマの猫が彼女を一瞥したが、特に追い払われることはなかった。他の猫たちも夏朝を邪険にするでもなく、歓迎するでもなく、ただただ気ままに過ごしている。

（普通の猫さん達も可愛いし、あやかしの猫さん達も可愛くて気になる……！）

　ここは霊界だが、猫たちの様子は寝子島とあまり変わらない。しいて違いを挙げるなら、あやかしの猫が多数混ざっているくらいだ。普通の猫たちを撫でながら夏朝はふと考える。

（普通の猫さん達と、あやかしの猫さん達。触り心地も違うのかな……？）

　夏朝は幽霊猫の様子を窺いつつ、そっと手を伸ばす。その猫は触れることができたものの、なにかふにっとした感覚だった。普通の猫が持つ柔らかさもあるが、それとは違った心地よさがある。

（あ、そうだ）

　夏朝はnyaphoneを取り出すと、猫たちに一言断ってからカメラを向ける。このデータが残るかは分からないけれど、大切な思い出にしたかった。写真を撮られることに無関心な猫、nyaphoneに飛びつく猫、様々な猫たちを写真に収める。
　猫たちの集会は何か特別なこともなく、穏やかに過ぎていく。どのくらい時間が経ったか分からない。するとトラジマの猫が全体に向けてなにか呼びかけている。どうやら集会が終わりに近づいているようだ。

（そういえば噂には『まとめ役以外は集会が終わらない内に元居た場所に帰る事』っていうルールがあったっけ）

　彼女は『違う場所に帰ってしまった場合』にどうなるか気になったものの、猫たちに万が一のことがあると悲しいし、冒険はしないことにした。

（僕は普通に……元居た場所に帰るね）

　猫たちに帰り方を聞いてから、屋敷の出口へ向かう。

「楽しかったよ……本当に、ありがとう。またね、猫さん達……！」

　最後に振り返った夏朝がそう伝えた後、意識が遠のいた。気が付くと、霊界に行く前に立ち寄っていた雑貨屋に戻っていた。まるで短い夢を見ていたような感覚だった。

（また会おうね、猫さん達）

　nyaphoneの画像はぼやけていて、何が写っているかよく分からない。けれど、その場所にいたことを思い出すには十分だった。

「……そうだ、ろっこん用のねこシール買っておかないと！」

　夏朝は先ほど出会った猫たちにどことなく似ているシールを買って帰路に着いた。

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