霊界の猫たちの集い｜リアクション

霊界の猫たちの集い

●この場所だからこその味わい

　三毛谷道哉は明治時代から来たような帽子に和服をまとい集会所に足を運んだ。今回の集会所は広い庭に池もある日本家屋風の幽霊屋敷だった。先に来ていた知り合いの猫又や化け猫たちに挨拶をする。
　そしてその庭の一角、他よりも少し高いところを陣取る。ここは集会全体を眺められる特等席だ。

「これ、一緒に楽しもうじゃないか」

　道哉は持参した嗜好品を広げると、マタタビ酒をはじめ、様々なものがそろっている。彼はこんな感じで、集会の場を借りて勝手に宴会にしている。そうして同胞たちと楽しい時間を過ごす。まとめ役であるトラジマの猫も、道哉が極端に場を荒らすことをしなければ黙認しているようだ。
　マタタビ酒を成人済みの仲間たちとともに味わい、マタタビそのものも満喫する。盃でちびちびと飲んでいたが、だんだんと酔いが回ってくる。笑い上戸な彼は本当に楽しそうに笑っていた。仲間たちと会えたのが嬉しくて舞い上がっていた。ここに訪れた時は人型だったのに、だいぶ崩れてきて猫耳や二又の尻尾が出ている。
　不意に、すねに何かが当たる感触があった。

「にゃははは！　すねこすりの坊や、上達したじゃないか。驚かされたぞ」

　道哉は笑いながら、すねこすりの頭を撫でる。

「あー……名前はなんだったか。ともかくいい向上心だ。立派なあやかしを目指して励めよ」

　その言葉にすねこすりは嬉しそうに頷いた。

「今日はちょうど日頃の成果を出すのにうってつけじゃないか」

　笑いながらウィンクをする道哉。そこには『みんなを驚かせて可愛がってもらえ』というメッセージが込められていた。

（さて、どこかにいい実験台はいないか……）

　すると、この場には珍しく人間の姿があった。おそらく何かのきっかけで迷い込んだのだろう。

「ほ～ら、あそこにいる人なんか、きっと飛び上がって慄くぞ。そしたら大妖怪だと思うかもな～」

　すねこすりは目を輝かせてその人間に突進していった。驚いた人間とすねこすりの攻防、もとい、じゃれあいが始まった。そんな様子を道哉は満足そうに眺めて酒を呑む。そこに猫館鳴が近づいてくる。

「あなたも来たのね」
「おお、鳴か」

　遠くではすねこすりが迷い込んだ人間とわちゃわちゃしている。鳴はその様子をしばらく眺めた後、道哉のほうを見た。
　
「……また何か吹き込んだの？」
「さて何のことかな」

　鳴は呆れたように目を閉じて軽くため息を吐く。そして、ほどほどにねと言い残して去っていった。
　酒盛りは続き、持ってきた酒やつまみがもう尽きそうだ。そしてすっかり出来上がった彼は、完全に三毛猫の姿になっている。もう猫又のプライドは飛散して、ゴロゴロと甘えて毛づくろいしている。するとトラジマの猫がそれぞれの場所へ帰るようにと促す。

「帰る……？　ああ、アレか……」

　道哉は集会のルールを思い出した。しかし、すっかり酔っぱらっていて動けそうにない。

「あ～……私は動けん。家まで運んでおくれ……」

　体をのったりと動かしながら旧友の猫にしなだれかかる。彼はやれやれといった様子で、道哉とともに集会所を後にした。

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