霊界の猫たちの集い｜リアクション

霊界の猫たちの集い

●息抜き

　八神修は七夜あおいと一緒に寝子島高校の図書室で勉強していた。外からは部活で賑わう生徒たちの声が聞こえる。

「んー……！」

　あおいが参考書を閉じて大きく伸びをする。一区切りついたのだろう。

「ちょうどキリがいいし休憩しよっか」
「うん」

　修もテキストを閉じた。姿勢を楽にして、２人は他愛のない話に花を咲かせる。しかし途端にふわっとした感覚が訪れたかと思うと、意識が途切れた。

「ん……」

　修が目を覚ますとそこは知らない景色だった。隣にはあおいも横たわっている。まず彼女の様子を確認しようと声を掛ける。

「あおい、大丈夫か？」
「……ん、修君……」

　まだぼんやりとした様子だが、怪我は無いし、受け答えもちゃんとしている。とりあえず大丈夫だと分かると修は安堵した。

「私たち、さっきまで図書室にいたのに……」

　あおいは周囲を見て困惑している。修は彼女の不安を拭うために自分も状況を確認する。とりあえず危険な状況ではなさそうだが、ここに留まっていても仕方ない。２人はしばらく周囲を歩くことにした。すると建物らしきものが見えてきた。

「これは……屋敷？」

　それは日本家屋風の屋敷だった。大きな建物、広い庭、そして池。その一角には猫たちが集まっていた。よく見ると半透明の猫なども一緒にいる。

（あやかしの猫が結構いる……となるとここは霊界か？）

　そうして遠巻きに観察していたら、トラジマの猫がこちらを見てきた。敵意というより様子見といった視線だ。修はあおいの手を取って、その猫のほうへ歩き出す。

「はじめまして」

　修の挨拶に対して、猫は表情を崩さなかった。ただこの集会について尋ねると、霊界で定期的に行われるものだと知る。特に場を荒らすようなことをしなければ、追い出されることはなさそうだ。それを聞いて２人は安心した。修はさっそく鞄の中から猫のオヤツやおもちゃ、それにブラシを取り出した。

「いつも入れてあるんだ」

　そう言いながらあおいに手渡す。猫たちも修たちに少なからず関心があるらしい。おもちゃで気を引いたり、ブラシで手入れをすると気持ちよさそうにじゃれてくる。その様子は寝子島にいる猫たちと変わらない。修はあおいが楽しく猫たちと交流できるようにさりげなく手伝う。

「みんな可愛いね」

　あおいは穏やかな表情で猫たちと戯れている。修はその顔を満足そうに眺めている。　

「あおいが勉強頑張ってるから、息抜きしておいでってことなのかも」
「そうなのかな……だったら嬉しいな」
「俺もこういう不思議なら歓迎だ」

　猫たちも修たちに危険が無いと判断したのだろう。だいぶ気を許している。すると一匹の猫があおいの膝の上で丸まった。リラックスした様子でまったりしている。

（なんて羨ましい猫だ……）

　修はその猫をじっと見つめる。その視線に気づいたあおいが声をかけてきた。

「どうしたの、修君？」
「あ、いや、膝枕……」
「膝枕がいいの？」
「そりゃ好きな人の膝枕とか……憧れる……し……」

　言いながら、修はだんだん恥ずかしくなってきて顔が真っ赤になる。あおいもつられるように真っ赤になって、無言になってしまった。そんな雰囲気を猫たちがうまく繋いでくれた。２人はお互いに微笑むと、集会が終わるまで楽しんだ。

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