霊界の猫たちの集い｜リアクション

霊界の猫たちの集い

●猫に囲まれた１日

　水槻清恋が寝子島警察署に来てから２か月が経ったある日。その日は非番だったので、寮の自室で過ごしていた。黒のタンクトップにデニムのショートパンツという軽装で、部屋の事をほどほどに済ませるとサンダルを履いてベランダに出る。

「いい天気ね」

　初夏の澄んだ空から日差しが優しく降り注ぐ。タバコに火を点けて、のんびりと日向ぼっこをしていたら、ついうとうとしてしまい、眠ってしまった。

「……ん……」

　清恋はゆっくり瞼を開く。

（あぁ……そういえばベランダで……）

　そこまで思い出して顔をあげると、そこは見知らぬ場所だった。ぼんやりした意識は瞬く間に去っていき、一気に目が覚めた。はじめは夢の中かと思ったが、どうも違うらしい。

（立ち止まってても、仕方ないか）

　ここがどこなのか全く分からないが、とりあえずその辺をうろついてみる。なにか手掛かりがあるかもしれない。すると日本家屋風の屋敷に出くわした。誰か住んでいる気配はなく、幽霊屋敷だ。しかし外観からかなり大きい事が分かる。どうやら広い庭もあるようだ。
　ふと、その庭からなにか鳴き声が聞こえた。

（この鳴き声は、まさか）

　彼女はある予感を抱えたまま行ってみると、そこは猫の集会場だった。思わず恐怖で立ち竦んでしまう。
　清恋は大の猫嫌いだった。きっかけは高校生の時に体験したある出来事。しかもついこの前も猫がらみでとんだ目に遭ったばかりだ。

（……なんで猫にこうも縁があるの？）

　かなりげんなりした気持ちだった。
　そのまま踵を返して帰ろうとしたら、猫たちに見つかってしまった。不審な存在に対する警戒心か、はたまた無邪気な好奇心か。何匹にも囲まれてしまい、流されるままに集会に参加させられてしまった。

（猫好きならたまらないのだろうけど、こっちはもう泣きたい気分よ）

　みゃあみゃあと鳴く猫たちは自由に過ごしている。先ほど清恋を連れてきた猫たちも何かしてくるという様子もない。彼女はこの状況をどう脱するか考えていた。うんうんと唸る彼女のもとに１匹の猫が近づいてくる。

「君、名前は？」
「え？」

　清恋は一瞬固まってしまった。その猫は体が半透明で、普通の猫とは違う。しかも人の言葉を話している。

（え、猫……猫よね？）

　清恋の脳内は押し寄せる情報量に追い付けなかった。猫に囲まれて冷静ではないのもあるだろう。そんな様子を察したのか、幽霊猫は言葉を続ける。
　
「たまにいるんだ。君のように迷い込んでくる人間が」
「そ、そうなんだ」
「だからこの集会で出会ったのも何かの縁かもしれないよ」
「縁、ねぇ……」

　猫にはろくな思い出がない。しかしその猫とはなんだかんだ話し込んでしまった。理由は彼女自身よく分からなかった。言葉が通じることに安心したのか。彼にあまり猫らしさを感じなかったからか。とはいえ、帰るタイミングは最後の最後まで訪れなかった。
　まとめ役と思われるトラジマの猫に促されるまで、猫まみれな一日を過ごした。

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