「やばくないですか、あれ」
　一方こちらはリング上。
　あまりにブッ飛んだ水泳部の――とくに大物をぶん回すあの前列の大女は危険だ。
　バトルエアーを全身に受け、後先も構わずに突っ込んでくる。
　先ほどまで戦いを繰り広げていたバスケ部の碧南とシン体操部の翠響、思わず顔を見合わせる。
　後輩達は予期せぬ怒濤の展開に戦意喪失、まともに判断の出来る状態ではない。
　このままでは、各個撃破によるゲームオーバーは目に見えている……。
　
　そのとき、急に走り込んで来た陸上部・日向が二人の顔をずいっと覗き込んだ。
　屈託のない瞳に、思わず仰け反る。
　ニッと笑って、日向はこう言い放った。
　
「共闘しない？　今だけ、共同戦線でいいよね……？」


「！？」

　驚愕に目を見開いて、二人は日向を見やる。
（共闘･･････）
（部を越えた、チームプレイ？）
　常識外の提案である。このバトルエアーの状況下では、互いに喰らいあい、骨の一片まで残さないのが道理である。
　――何か、計略があるのか……？
　当然の疑いを抱く二人、だが日向の目には底意は見えない。ただ純粋無垢な、信頼があるだけだ。
　クォーターという出自、だからというわけではない。
　どのような状況であっても、無条件に他人を信じ、絆でつながり合おうとする態度。
　これこそ日向が陸上部の代表として、将来を嘱望される理由なのだ。
　
　
　日向の申し出に莉鳥も頷く。
　蝶のように舞い、蜂のように刺すが信条の、軽量級の自分ではヘビーな水泳部に対抗しきれない。
　協力することが可能ならば、それが最良の手段だ。
　
　――ドオオオオオオ･･････ッッッ！！！！
　
　その刹那、ひときわ大きな水柱が上がった。
　直上の獅百合がカッパギを構え、哄笑を放つ。
　

　「……」
　「……」
　バスケ部とシン体操部、逡巡は一瞬だ。
　共闘を組むのは、リスクが大きすぎる。いつ寝首をかかれないともかぎらないし、バトルエアーの支配する状況では共闘はマイナスの可能性もある。
　万一勝利しても、部費の分け前でもめたりしたら、面倒だ。
　だが、この苦境をしのぐには、その方法しかない。

　
　――ならば、一度だけ。

「この代償は――」
「――カラダで払ってもらうから！」
　言うなり碧南と翠響は、獅百合めがけて跳躍する。
　
　
「あ、まさかの陸上部･･････バスケ部・シン体操部と共闘･･････？」
　ディスプレイに映し出された光景に、黒崎先生が声を上げる。
　水泳部の大瀑布に、バスケ部の碧南とシン体操部・翠響が突撃。
　バスケットボールをダンクシュートよろしく構え、直上から獅百合を狙うバスケ部。
　リボンとバトンを同時に操り、中距離射程の攻撃を加えるシン体操部。
　お互い即席のコンビとは思えない、息の合ったフォーメーションだ。
　
「カアアアアア！！！」

　まさかの二人がかりに、哄笑を放つ獅百合。
　鉄棒一閃、大瀑布。繰り出す波動の合間を縫って、一瞬で間を縮める。

「兎に角任されたからには、勝たねば武人の恥というものッ！！
　
　暴れてやりますよ――鬼人のごとくッ！！」
　
　大音声を放って、上段から飛びかかる碧南と翠響を同時に相手取る。

　その様は、さながら虎牢関における、関羽雲長と張飛翼徳を同時に相手取る魔人・呂布のようだ！
　　
「やあ、人気だねー水泳部」
　二対一でバトルを繰り広げる獅百合を、荒太郎は距離を取って眺める。
　相手は多数。一転してピンチに陥るも、荒太郎は悠然としていつもの態度を崩さない。
　すでに一度部費争奪戦を繰り広げた身、いかなるイレギュラーであっても、このエアーの中では想定の範囲内なのだ。
　それにこちらとしても……うかうかとしてはいられない。
「……来たね！」
「今日だけは……ぶっても許してね！」
　水泳部の水中に向けて跳躍する二つの影。
　陸上部の日向と莉鳥。
　バスケ部・シン体操部が獅百合を相手取る間、二人は本陣を攻める。
　
　陸上部の二人は、空中で激しく旋回する。
　ゴォウッ！
　すさまじい風が巻き起こり、水の壁を切り裂く。
　
　対する荒太郎と桜は、
　
「みーたーか、ひっさーつ、カッパギタイフーン！」
　
　手にしたカッパギをすくい上げるようにして振るい、こちらも風を巻き起こす。
　前回は校舎を破壊する程の超巨大竜巻を完成させた水泳部だ。かまいたちを作り出すなどお手の物である。
　　
　渦巻くかまいたちが激突する。
　空気がビリビリと震える。
　乱気流が激しく舞い上がり、
　
　――叩き、こむっ！
　
　高く飛び上がった日向と莉鳥、上段がら風のスクリューを水泳部に浴びせかける！
　
　
　音もなく水柱が砕けた。



「さあ、いきなり校庭のリング上は荒れ模様！
　――いっぽう、校内の方です･･････が･･････」
「黒沢先生、どうなさいましたか？」
「い、いや……」
　手元にあるデータを確認し、絶句する黒沢先生。
「ちょっと･･････にわかには信じられませんが･･････。
　校内、ある部活動が急速に勢力を伸ばしています……。
　すでに、校内の半分以上を占拠……」
「半分？　すごいわねぇ」
　両手を合わせて、ほのぼのとおどろく白沢先生。隕石が地球に激突しても、彼女はこんな風に驚くのだろう。
「信じられない……。
　
　圧倒的な力を誇るその部活は――。
　
　――アイドル研究会！」