島山梅園梅日和。｜リアクション

島山梅園梅日和。

「そろそろ時間なんで切り上げてください！　お疲れ様でしたー！」

　そんな久幸の叫び声が、今日のバイト終了の合図だった。それに、やれやれ、とバイト達はあちらこちらで大きな伸びをする。
　もっとも、終わり、と言っても厳密には、すべての梅を収穫し終えたわけではない。まだ枝に梅の実は残っているが、今日これ以上摘んでも出荷作業が間に合わないし、摘んだまま置いておくと悪くなるので、残りはまた明日以降に家族でやるのだという。
　上機嫌な様子の晴久が、今日のバイト代の入った封筒を全員に渡して回った。

「いやぁ、助かったよ」
「ありがとうございます。――でも、さっきまで摘んでた梅の選果は、今日中にやらないといけないんじゃ？」

　その封筒を受け取りながら仙藤紫が尋ねると、そちらももう残り少ないので手伝わなくて良い、とのことだった。ちら、と確認するように久幸の方に視線を向ければ、こくこくと父の言葉に頷いて。
　それから、七尾君、と申し訳なさそうに七尾蒼也に視線を移した。

「ごめんね、最後のカゴ運びだけ一緒に頼めるかな」
「わかりました」

　久幸の言葉に快く頷いて、蒼也は最後のひと踏ん張りと台車にかごを積み上げ、歩き始めた。初めてのバイト、疲れたがやりがいがあったな、と思う。
　そんな2人の姿を見送って、紫はタオルで汗を拭った。本当は、ある程度梅の実摘みの作業が終わったら、今度は梅の実拾いや選果を手伝ったりしようと思っていたのだ。
　姉と同じく『もし時間が余れば梅の実の選別とかの作業とかも手伝おう』と考えていた仙藤蒼は、でも結果的に終わってくれて良かったかも、とぐったり座り込む。終わりが見えてきてからは一向に作業が苦にならなかったとはいえ、1日中地味に腰と膝にくる仕事を続けた蓄積疲労は、なかなか馬鹿にならない。
　そんなバイト達とは対照的に、島山家や普段から手伝いに来ている人達は、まだもう少し余裕がありそうだ。目が見えないため普段はあまり農作業をしないという弥生すら、疲れた様子はあれどぐったりしている様子はない。
　そんな弥生に小山内海が、タブレットを通じて話しかけた。

『弥生ちゃん、すごいね』
「海さん。その、今年は収穫が始まってからずっと、梅拾いを手伝ってたから慣れたんです」
『そうなんだね。弥生ちゃんもまだ手伝うの？』
「いえ、選果は手伝えませんから……」
『じゃあちょっとだけ、おしゃべりしない？』
「……！　はい、ぜひ！」

　そう話しながら仲良く母屋へと歩いて来た少女達を、ちょうどこちらも仕事を終えて母屋横の選果場から出てきたマリエッタ・ラシュリエは、ちら、と見る。気付いた海が『お疲れ様でした』と書いたスケッチブックを見せながら頭を下げたのに、軽く会釈を返した。
　そうして疲れた体をうーん、と思い切り大きく伸ばし、空を仰ぐ。――何かバイト前に思ってたのとは違ったけど、それでも楽しめたな、と微笑んでマリエッタは、ゆっくりと帰路についたのだった。

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あとがき

担当マスター：蓮華・水無月
ファンレターはマスターページから！

いつもお世話になっております、蓮華・水無月と申します。
この度はご参加頂きまして、本当にありがとうございました。

島山梅園でのこんな1日バイトの物語、いかがでしたでしょうか。
普段はあまりやる事はないであろう収穫作業、少しでもリアルに感じて頂けたらと、頑張って執筆させて頂きました。
ちなみに水無月個人は、この手の収穫はブドウ狩りくらいしか経験がないのですが、レンタル農園で鍬やら鋤やらミニ耕運機やらを使ったなんちゃって農業なら数年ほど経験したことがあります。
なぜ一般家庭にミニ耕運機があったのか、それはちょっとよく解りません。
なぜ……

お届けさせて頂きましたリアクションが、皆様に僅かなりとも楽しんで頂ける物であれば、心から嬉しく思います。
またのご縁がございましたら、どうぞ宜しくお願いいたします（深々と

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