九夜山の裾、天宵川を挟んで星ヶ丘を望める辺りに、島山梅園はある。
島山さん一家が代々営んできたその梅園は、6月のこの季節には例年ならば、そろそろ梅の季節も終わる頃合いだ。そうして農協や契約店への出荷も終わり、さらには残った梅の実を家用や、花の頃になれば僅かに訪れる観光客用の梅仕事もひと段落している頃。
だが今年の島山梅園は、それとはちょっと様子が違っていて。さほど広くはない梅園のあちらこちらにはまだ、青々とした梅の実が枝に残っている木がたくさんあるし、熟して枝から落ちた実を優しく受け止めるシートは連日、枝から落ちてくる実があちらこちらにある状態。
というのも――
「やっぱり叔父さん無理だって?」
「……だな」
梅園の島山家の跡取り息子・島山 久幸(しまやま・ひさゆき)がそう尋ねたのに、父であり梅園の管理人でもある島山 晴久(しまやま・はるひさ)は何とも言えない表情でたった今切った電話を見据えながら、そう言葉少なに頷いた。それは久幸にとって予想通りの回答で、けれども落胆のため息がつい零れてしまうのは止められない。
梅の収穫が例年通りに進んでいない理由は、まさにこの叔父――晴久の弟で日頃は本土で会社勤めをしている――にあった。例年なら、梅園が一年で最も忙しいと言っても過言ではないこの時期は叔父一家が来て収穫を手伝ってくれていたのだけれど、今年は当の叔父が自宅の階段から落ちて足を骨折しリハビリ中、高校生の従弟は受験生で忙しく、手伝いに来るのが難しいらしいのだ。
叔父自身は『リハビリなんてさっさと終わらせるから』と豪気に笑っていたそうだが、梅の実の収穫は不自然な姿勢も多い肉体労働。まさか叔母だけ来てもらう訳にも行かないし、今年はこっちで何とかするからお前はしっかり養生しろと、晴久が弟に告げて電話を切ったのは間違いではない。
の、だがしかし。
「今週中には収穫せんと、さすがになぁ……」
「だよな……」
人手不足を解消するアテがあるわけでもない、父子は顔を見合わせて重いため息を吐く。熟して枝から落ちた実に関しては何とか、初夏の頃には準備を終えてあった樹下のシートのおかげで拾い集める事が出来たし、それ以外もせっせと家族で手分けして収穫を進めてはいるものの、それで何とかなるなら困ってはいないわけで。
うーん、と難しい顔をして、晴久が天井を睨みながらこう言った。
「お前の友達やらは、誰か、居らんのか? ほれ、前にも花摘みとかで来てたろう」
「あれは張り紙で手伝いを募集したんだよ。それに、あの時と違って今回は売り物の梅なんだし」
「構わん、このまま腐らすより幾らかでも収穫出来た方がマシだ」
晴久の物言いに、そりゃそうかも知れないけど、と久幸はため息を吐く。何しろ今年は、目の見えない妹の島山 弥生(しまやま・やよい)にすら手探りで梅拾いを頼むくらい、状況は深刻なのだ。
それなら、と久幸は父に頷きながらも念のため、断っておくことは忘れなかった。
「今回はマジに仕事なんだから、バイト代はちゃんと払えよ。あと、絶対に人が来てくれるとは限らないからな!」
「わかった、わかった。俺の方でも知り合いに声かけて探しておくさ」
そんな息子に晴久は、何でも良いからありったけの張り紙を張ってこいと厳命する。それにまた溜息を吐き、久幸は張り紙を作るべく自室に足を向けたのだった。
ねこったーや街角の張り紙で、『島山梅園にて梅の実を摘むお手伝いをしてくれる方募集! 詳細は当園HPまで。』という求人が出たのは、つまりそういう訳である。
いつもお世話になっております、蓮華・水無月と申します。
少しお休みをさせて頂いている間に秋めいてきた今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。
さて、今回は『島山梅園』という知る人ぞ知る梅園にて、梅の実を収穫するお手伝いをしてくれませんか、という依頼です。
具体的には
8:30~ 梅園の入口にある島山家前に集合。汚れても良い、動きやすい服装でお越しください。
9:00~ 収穫開始
12:00~ 昼休憩
(お食事は梅干しおにぎり・ナスとキャベツのぬか漬け・鶏のから揚げ・トマトの味噌汁をご用意しています)
13:00~ 収穫再開
~16:00 作業終了
という流れになります。
(※現実の収穫作業とは異なりますが、それはそれとして優しく受け止めて下さると幸いです;)
収穫作業は、枝から梅の実を取る、シートに落ちた梅の実を拾い集める、選果場(島山家の隣に作業場があります)まで集めた梅の実を運ぶ、などの作業があります。
ご希望の作業があれば、アクション内に明記頂けますと幸いです。
※ご希望がない場合は水無月がいい感じに振り分けますので、悪しからずご了承くださいませ。
なお、今回は報酬の発生するアルバイトという事で、基本的には高校生以上の方の募集となります。
日当8000円、交通費は別途支給、当日現金にてお渡し。
とはいえ、それ以下の年齢の方がご参加された場合でも、社会見学を兼ねてどうしてもお手伝いがしたい……などの理由付がある場合は大丈夫です、バイト代は出ませんが!
<以下、説明など>
●島山梅園
場所:九夜山の裾、天宵川の傍辺り(地図の7B~7C辺りとお考え下さい)
広さ:200m四方くらい。同じ位の広さの畑が隣の敷地にあります。
管理者:島山 晴久(しまやま・はるひさ)54歳、妻・杉子(すぎこ)48歳
設定:
島山さん一家が代々受け継いで来た梅園。
毎年、観光梅園として梅の花が咲く頃には梅見客が訪れるが、あまり有名ではなく数は少ない。
実がなると家族で収穫して農協などに出荷している。
今年は諸事情で人手が足りず、出荷が遅れている模様。
●登場人物紹介
島山 晴久(しまやま・はるひさ)54歳
島山梅園の管理人でもある専業農家。少々物言いがキツイ時もあるが、家族思いのお父さん。
暇がある時には趣味仲間と囲碁をするのが楽しみだが、強くはない。
島山 久幸(しまやま・ひさゆき)25歳
島山梅園の跡取り息子。梅園を継ぐべく、本土の大学の農学部で農業を学んだ。
下宿して家を離れている間に事故にあった妹・弥生を不憫に思い、何かと気にかけている。
島山 弥生(しまやま・やよい)13歳
寝子島中学2年生。小学2年生の頃に自動車事故に逢い、目が不自由になった。
幼い頃は活発な子どもだったが、事故以降は音楽やラジオを聞いて家の中で過ごすことが多い。
※晴久、久幸、弥生との関係は、クラスメイト、友人、知り合い、梅園の常連など、無理のない範囲でご自由にご設定頂いて構いません。
それではお気が向かれましたら、どなた様もお気軽に、どうぞよろしくお願い致します(深々と