ゴールは落神神社｜リアクション

ゴールは落神神社

【同時刻……ある露出癖の寝子島奇譚】

「ここまで来れば追って来られないわよね？」
　舞や七星とはルートを違えながらも、忍足春も星ヶ丘ホースクラブ方面へと向かっていた。
　こちらの世界に飛ばされたとき、服を着ていたことがショックで雨の中をさまよっていたところ、例の軟体生物と遭遇したのだ。
「……私ほどの露出狂なら全裸で飛ばされると思いました」
　そう思っている矢先である。

　ずるっ……
　　　ずるっ……
　　　　ずるっ……

　星ヶ丘教会と郵便局に近い信号機から逃げるように、その軟体生物が春の方へと向かってきた。
　雨と闇のせいで、接近するまで気づけなかったのだ。
　ぎょろり、と黄色く濁った目が春へと向けられ、春もまた目を合わせてしまう。
（忍足春　１ｄ２０＝９）
「――あはっ！」
　春の喉の底から、艶やかな声が躍り上がってきた。
　内に秘められた痛みと、その痛みを快楽に変える能力が春のなかでぐちゃぐちゃになって暴れ始める。
（――いらないわ！）

　軟体生物を前にして、いきなり着衣を取っ払う。
　足を止めている間に、軟体生物は春に近づき、その触手を春に向けて延ばして、強い力で締め付ける。
　また、ゼラチン状の物質がぐにゃぐにゃと体を押しつぶし痛みと不快感が春の中で増すのだが……。
「んッ……あ、い、いやっ……」
　本人の業のせいか、半ば喜び、半ば痛いという謎の状況へと陥ってしまった。
　しかし、徐々に春は軟体生物の方へと引き寄せられていく。
　大きな口が、ゆっくりと春を包むかのように開き、徐々に飲み込もうと迫ってくる。
　口の中にはいくつもの突起があり、そこで半分かみ砕かれながらも、生きながら生物の体の中へと取り込まれようとしていた。
（忍足春　１ｄ２０＝９）
「あ……ぁぁあっ！　も、もっとぉ……もっとぉ……」
　ざわざわと全身を駆け巡る恐怖は春を虜にしていた。
　春は、脱出を試みることができない状況へと陥っていったのだ。
　その瞬間であった。
　ブゥゥゥゥゥン！　
　エンジンのうなる音が聞こえて、ヘッドライトが春たちを映し出す。
（照射した者　１ｄ２０＝１２）
「フシュゥゥゥッフシュゥゥゥッゥゥゥ！」
　強烈な光に、軟体生物が思わず春を解き放つ……。
「あうっ」
　地面に放り出された春は、そのまま雨に打たれながら這いつくばりつつ光の方へと顔を向ける。
「……大丈夫か？」
　春から少し顔をそらしつつ声を掛けたのは八神修である。
　別の軟体生物（八神修　１ｄ２０＝１６）から逃れ、たまたまこちら側に迷い込んだ修は、逃れた直後にまた出会うという何とも言えない不幸を味わっていた。
　先ほどから、襲いかかる恐怖を堪えつつ、なんとか逃げていた。
　飛ばされてすぐに確保したバイクとマグライトを武器に、軟体生物を避けるように逃げていたのだが、バイクの音が大きく、視界も悪いため方向感覚や地理を見失いやすく今のように迷い込んだり、行ったり来たりが多くなり星ヶ丘を突破するのに時間がかかっていた。
　結果、春がこのような事になっている事態に遭遇して助けに入ったのだが……。
「まだ……生きてるの？」
　そう言って、修の方へどこか淀みうろんな目をしながら問いかける。
「……色々言いたいことはあるが、とりあえずこっちへ来い！」
　そう言って、修が呼びかけると、ハッと春は正気を取り戻したように動き始める。
　放り出していた着衣を回収すると、慌ててすぐ着れる分はすぐ着てその場から逃れる。
「雨で濡れたこの感触が……」
「早く行くんだ！」
　春が何か言う前に、修がぴしゃりとそれを遮り逃走を促す。
　修は修で、さっさとこの場から離れたいのだ。
　今もだえている軟体生物がいつ動き出すか分からないのだから……。
　そう言い残しつつ、修は春を残してバイクで走り去った。
　春は、ひとまず状況からの脱出は出来たのであった。

このページにイラストを設定する