寝子街闘者　晩夏の陣｜リアクション

寝子街闘者　晩夏の陣

＊＊　＊

　戦いの中で一人、また一人と力尽きていく。
　それは『黒豹組』も『白獅子』も同じ。だが、少しばかり『黒豹組』が優勢になってきた。
（それでも……この好機を逃せるかよ）
　陽は、地面に血交じりの唾を吐き捨てて身構える。
「てめぇら、覚悟しろ。罪状はごまんとあるんだからよ！」
　襲い掛かる敵へと陽が長ドスを閃かせ、次々に敵を圧倒する。殴られ、切られ、ボロボロになっても立ち向かう。その戦いっぷりはまさに狂戦士と言えよう。幾つもの弾丸を切り飛ばし、陽は道隆を狙う。
「おらああああっ！」
　相手の懐に入り、長ドスを振るう。かつて『白獅子』に入っていた……今は病院にて廃人のようになってしまった戦友が残したものだ。
「くたばれ、『黒猫』がぁああっ！」
　踏み込み、荒く鋭い刃を振るう。が、道隆は冷静に動きを読み、長ドスを持った手の骨を砕かんと蹴り飛ばす。
（くそっ、これぐらいで……）
　陽はどうにかうっすらと瞳を開き、持っていたハンカチで手に無理やり長ドスの柄を結び付けた。
「狂戦士か。戦いづらいな」
　冷静に眼鏡を正す道隆だが、彼もまたボロボロである。的確な射撃により『白獅子』を追い詰めんとする姿はまるで機械のようだ。ここで倒れてしまっては元も子もない、と陽を狙おうとした。だが、陽に追い詰められる。
「ダァれが喰うか……、猫餌なんかよお！」
　迫る銀色に、銃が伸びる。それは、本当に一瞬だった。
「俺は死んでも仁義を通してやラァァア！」

　壁へと追い詰めた陽が、道隆のネクタイを引き、長ドスを喉に当てる。だが、道隆の銃もまた、陽の頭に向けられている。
「その仁義、本当に通せるか……『首輪付きの白猫』」
　にらみ合う両者。周りの構成員と警察も、身動きが取れない。重い空気が時間の感覚を鈍らせるほどに。だが、その静寂を……一発の銃声がかき消した。

「お前……」
　『黒豹組』組長が、アオイの手を押さえていた。その筒の先から煙が立ち上っている。銃を奪った組長は、すぐさまアオイを撃とうとする。だが、
「させるかよ！」
　そこへ銀色の何かが飛び込み、アオイは身を翻す。銀色の正体は、陽の長ドスだった。彼は、アオイの顔に見覚えがあった。
（１０年前、俺が保護した女性だ。『山猫組』組長の息子の婚約者、相島　絢子……。記憶では故郷に帰った筈じゃあ……）
「あの女、どれだけ愛してやったか忘れたのか……っ」
　彼女を追え、と組長は動ける部下たちに命じる。道隆はどうにか立ち上がり、陽に銃口を向けた。
「それが、お前の仁義か」
「……」
　陽は黙って動ける者にアオイを追えと手で指示する。組長は笑いながら道隆に言った。
「志村！　その『白獅子』のを勧誘しとけ。そいつぁ、いい根性してるぞ」
「だそうな。どうだ？」
　道隆がやる気なさげに問うも、陽は鋭い眼のまま言い放った。
「お断りだ、ボケが。俺ァ……最後まで『白獅子』でいるんだよ」
「そうか。残念だ」
　組長は、道隆に撃て、と命じる。陽はぐっ、と手を握り締めながらよろめきつつも向き合う。
　遠くで銃声がいくつも聞こえる。彼女は生きているのだろうか？　陽はどうにか逃れて欲しい、と思いながらも顔には出さなう。
「じゃあな、白獅子の」
　組長の言葉に、陽の表情が険しくなる。だが、銃声は聞こえなかった。
「行け」
「……それがお前の仁義か？」
　彼に促され、陽は思わず問い返す。だが、僅かに目を細め、長ドスを拾うとその場を去る。