寝子街闘者　晩夏の陣｜リアクション

寝子街闘者　晩夏の陣

「二人ともいい動きうごきしてるね！」
「！　あざーすっ！！」
　望月がぱっ、と顔を輝かせる。確かに傷のメイクはくすぐったかったりするしセリフも覚えるのが大変だ。だが、めちゃくちゃ楽しい。
「んー、釣られて心が引き締まるね！」
　痣のメイクが消えぬよう眼鏡をかけ直しながら武道が頷く。悪役をメインとする組長役の俳優も「二人ともそのまま本気でアクション俳優目指さないか？」と２人に提案するほどよいらしい。
　絢も絢で初めての割には筋がよいらしく、ワイヤーアクションも気合でこなす。
（ちょっと慣れないけど……）
　体が浮く感覚にちょっと怖さを感じるが、役を意識して乗り越える。
　ほぼ体当たりでの演技で、撮影が終わるたびに絢は疲労困憊になっていた。
「大丈夫かい？」
　武道が暖かいカフェオレとお菓子を差し出し、絢は礼を言ってそれを口にする。顔を上げると、丁度望月が演技の練習をしていた。武道は絢に手を振ると望月と動きを確かめるべく演技の練習へ。
（右、左、前前、ターンして掴んで、この下で……弾く！）
　身体の動きを確認しながら、始めはゆっくり合わせていく。
「ここむずかしいな武道ちゃん」
　ドスの持ち手も銃口もちっこいし……と、ため息を吐く望月。
「そうだねー。結構難しいけどやりがいあるよ」
「で、このあと目つぶしシーンだっけ？　……ホントに投げないでぶどーちゃん」
「わかってるYO☆」
　そこで「本番でーす！」と声がかかる。望月と武道には「臨機応変に動きを変えてもいい」とアドバイスが入り、撮影スタート。衣装を纏い、メイクを整えれば役に入り込む。
（モデルガンを弄り、台本を読み込み自分なりの『インテリ若頭』を練り込んできたんだ。……いける）
　武道のセリフからスタートした撮影は、激闘のシーンへ。そして、例の目つぶしのシーンが入り「カット！」の声がかかる。そこですっ、と『若頭』から『普段の武道』へと戻る。２人は他のスタッフと共に早速映像のチェックをしてみることに。

（カメラチェック中の２人）

「ねねねぶどーちゃんぶどーちゃん！　俺うまく行った？　ちゃんと怖かった？『ドス』ってのきいてたきいてたねぇねぇねぇ！！」
　燥（はしゃ）ぎ気味に望月が問えば、武道も釣られて笑う。
「もっちー名役者！　普段と違って少しゾクッとしちゃった☆」
　その言葉に、望月は「ホントか？」とぱっ、と表情をさらに明るくする。絢共々楽しそうに笑った武道は、目を監督と音響用マイクを握っていたジャンに視線を移した。
「そして一番すごいのは俺たちをチョイスしたジャンせんせと難波監督だよなぁ」
「たしかに。ジャンセンセの見る目ってすげぇのな……」
　ジャンは、二人の視線に気づかず難波さんと色々打ち合わせをしている。絢はこの２人の息の合った演技を見ながら「自分も頑張ろう」と気合を入れなおし……ののこは撮影まで時間がありすぎたのか、椅子にもたれて眠ってしまっていた。
「おつかれさま」
　絢は、コートをののこにかけてあげるのだった。

　無事に完成した『寝子街闘者　晩夏の陣』の試写会では、全員がなかなかの出来に息をのむ。武道と望月は互いに撮影の時の事を思い出しつつ「かっけぇって言ってもらえるかな？」「言ってもらえるさ」とそわそた。
　絢はドキドキが止まらない様子で「演技、できてるかしら……」と頬を赤くしながら呟いている。
「皆、よく頑張った。手ごたえを感じているよ」
　難波さんの言葉に、一同が自信を持つ。
　事実、公開された映画は好評でこれをきっかけに絢は『注目の新人女優』として雑誌に取り上げられることになる。
　望月と武道、ののこにも別の映画のオファーがあったり、と彼らにも影響を与えたようだった。

「なんか、今でも夢みてぇだなって思うわ」
　望月がそう呟けば、武道が「そーだねぇ☆」と笑う。しかし、彼らはあの寝子街の住人達のようにがむしゃらに立ち向かった映画撮影の日々を、忘れないだろう。

（終）

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あとがき

担当マスター：菊華伴
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菊華です。
大変お待たせして、申し訳ありませんでした。
『寝子島闘者　晩夏の陣』ようやく出来上がりました。
晩夏過ぎてしまいまして、心苦しく思います。
少しでも、楽しんでいただけたら幸いです。

劇中劇自体（映画部分）は本来はもっと長いのですが、今回はダイジェスト版的な描写とさせていただきました。
もっと、こう、アクションシーンとかばりばりやりたかったんですよ……。

それでは、この辺りで。
また縁がありましたらよろしくお願いします。

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