寝子街闘者　晩夏の陣｜リアクション

寝子街闘者　晩夏の陣

「志村、これはどういうわけだ。説明しろ」
「……あの女性は、部下が始末する。『白獅子』からの攻撃は打撃となったが、まだリカバーできないほどではない」
　道隆はそれだけ言うと、組長に帰りましょう、と促し……共に歩きながら考えた。
（やるならば、今か）
　この男は、『黒豹組』を大きくした。……が、道隆は思う。この組長は『黒豹組』を大きくしすぎた。
　道隆は無駄のない動きで引き金を引いた。
「この組は、俺が動かす」

　ややあって、空は曇り雨が降り始めた。アオイは物陰に隠れながら『黒豹組』の人間が居ってこないか様子を伺う。
（どこで間違えたのかしらね）
　ヒューヒューと喉が鳴る。アチコチが赤く染まり、鉄の匂いが身体から溢れる。追手とやりあっている内に、彼女は何度も撃たれていた。
　『白獅子』も自分を追っている。あぁ、そうか、自分にも捜査の手が回っていたのか。遠くで銃声がする。もしかしたら『黒豹組』と『白獅子』が打ち合っているのかもしれない。これはチャンスだ。逃げなければ。でも、逃げる力がない。
（ホント……どこで……間違えたのかしら、私……）
　息がおぼつかない。体が重い。だが、そこへしっかりとした腕が己を抱きしめる感触がした。
「おいっ、しっかりしろっ！」
「霧哉さん……、私……」
　冷たい。身体から、熱が抜けていく。力強く支えようとする腕の中に、沈み込んでいく。
「あいたかった」
　アオイは、僅かに微笑んだ。

「……間に合わなかったのかよ」
　陽は、自分の腕の中で息を引き取ったアオイ……否、絢子を抱きしめる。死ぬ間際、彼女には、自分が婚約者に見えたらしく、とても優しい顔になっていた。
（……くそっ、俺は……）
　胸の奥が、燃えている。その怒りが、痛みが、陽の中でどろりと燃えていく。
「潰す」
　『黒豹組』だろうが、なんだろうが、敵は潰す。そう決めた。その決意が、後に寝子街にどのような嵐を呼ぶのだが……今はまだ語られる時ではない。

「組長が、銃撃戦に巻き込まれた死んだ」
　道隆の言葉に、一同が凍る。だが、これは仕組まれていた。大半の部下が、彼の作戦に賛同していた。
　組長……いや、元組長は、『黒豹組』の勢力を広げたはいいが、有象無象まで入り込むようになっていた。故に、前の組長にも恩義があった道隆は、どこかのタイミングで撃つつもりでいた。それが、たまたまこの日だったというわけだ。
　アオイは、『山猫組』組長の息子が愛した女だった。彼女は愛した男の仇を取るべく潜入したのだろう。そして、仇を討てず死んだ。
　あの後、組長についていた者達が彼女を追い、始末するべく動いた。途中『白獅子』と銃撃戦を繰り広げることになったが、その際撃っていたらしい。
　病院に搬送されたようだが、その時既に事切れており付き添った男が声を押し殺して泣いていたそうだ。
（さて……どう落とし前をつけようか）
　道隆は、抗争させた２つの組織のどちらかを吸収するつもりでいる。するならば、昔ながらの極道に近い『熊爪組』だろうか。忙しくなるな、とどこか遠い眼で空を見、悲しい暗殺者を想うのだった。

　のちに『黒豹組』は道隆を長とした『黒爪』と別の男を長に置いた『斑』の２つに分かれる。そして『白獅子』たる陽をも巻き込み血の雨を降らすことになるのだった。

（寝子街闘者　晩夏の陣……幕）

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